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マンプク宮殿2 新巻鮭と怪奇骨董音楽箱

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 私の住んでいた地域の海沿いでは冬になると鮭が遡上してきて、沿岸部に住んでいる親族から新巻鮭が届くのが恒例になっていた。届いたら外の物干し竿に吊るして保存、冬は最低気温が-15度、最高気温も零下を上回る事が少ないこの季節は冷蔵庫要らず、食べる時はそこから包丁で切り出して焼く。味も今スーパーで売っている甘塩鮭とかサーモンのような上品な塩味とフワフワした身のものではなく、焼きあがりは表面に塩の結晶がびっしり、身も硬くて噛み応え有の1品。今食べている焼き鮭は味も上品だし健康にはこちらの方が良いのだろうが物足りなさを微妙に感じるのは子供の頃あの味を刷りこまれたからだと思われる。まあ・・・・あんなものを今も食べていたら高血圧まっしぐら。


 中学2年の冬、KING CRIMSON,EL&P,YES,PINK FLOYDと日本盤で容易に入手可能な英国バンドの音を一通り体験した私の前に立ちはだかった難関はGENESIS。今では超メジャーバンド扱いだが80年当時はまだまだ。当時の新作である「DUKE」は辛うじて国内盤も出ていて当時数店存在していた輸入盤扱う店でも見かけたがそれ以外は何故か全く見当たらない。どうやらあの時期彼らの所属レコード会社CHARISMAがそれまでの配給会社から別の会社への移行時期だったらしく国内盤は一時的に生産中止になっていたというのが実情らしい。1件だけあった中古盤屋に毎週通いようやくライブ盤(GENESIS LIVE)のみ入手。盤質最悪でチリチリいうモノだったが宝物のようにして聴いていた。そうくると今度はスタジオ録音作品も聴きたくなり市内に存在するレコード屋全店を虱潰しに捜索。 一番欲しかったのは2ndアルバム、原題は「NURSERY CRYME」ジャケットは少女がクリケットをしているのだがボールは全部人の首という英国風味とゴシック恐怖テイストが綯交ぜになった絵。日本題は「怪奇骨董音楽箱」。1曲目のタイトル「MUSICAL BOX」+ジャケ絵の雰囲気から決めたであろう傑作邦題。秋口から探し始め、年末にようやく橋の傍にあった小さいお店でデッドストックを発見。発見したのは良いがその時の手持ち金は売価に足りず・・・・当時小遣いが月1.500円というアルバム1枚も買えない額だった自分の境遇に絶望するも、年末?という事は正月のお年玉が入れば買える!頼むから正月まで売れ残っていてくれ!祈りをこめて店を後にした。


 そして迎えた正月、お年玉も貰い買える体制は整ったがまだ正月はしっかり長期休みを取る個人商店が多かった時代、1/3にお店の前に行ったがまだ営業していない・・・次に行けたのが1/5。最悪な事に当日は大雪。バスで行くには幾つか乗り継がなきゃ行けない上にバス代で片道500円はかかる。仕方ないから自転車でGO!
 路は凍てついている上にパウダスノーが表面を覆っている、外気は確実に零度以下、10分も走れば全身真っ白になる状態で40分近くペダルを踏み込みようやく到着。当時の自分を褒めてやりたい気分3割、馬鹿だね・・・と思う気分7割。
 幸いに売れ残っており無事購入は出来たが、店の人も全身雪塗れな上寒さで顔が赤鬼状態の中学生が売れ残りのレコード買いに来たのにはさぞ気味悪かった事であろう。
 今度は自宅まで再度40分自転車。殆ど八甲田山状態になりながら帰還したところで激烈な空腹に気付いた。親に何か食べるものあるかと聞くと今朝焼いた鮭の残りがあるという。余り飯に鮭を載せてステレオのある部屋に向かう。
 塩味が殆ど辛味の域に達している鮭と苦労した購入できたレコードの組み合わせはどうたったんだろう?その時の気分は覚えていないが「怪奇骨董音楽箱」は確実に私の人生を彩った1枚ではある。彩りは鮮やかでは無く鈍色なのかもしれないが。

 余談ではあるが購入してから数カ月後、日本盤が全タイトル再発されるという情報をレコード屋店頭チラシで知った。あの苦労はなんだったんだ・・・と打ちひしがれたが、実際店頭に並んだものを見ると本来ダブルジャケットの所が廉価再発故コストダウンでシングルジャケに変えられた無残な姿を見たとき「勝った!」と何故か思った自分。あのアルバムは見開きの中ジャケ無ければ魅力2割減。

 

ナーサリー・クライム (怪奇骨董音楽箱)(紙ジャケット仕様)(完全生産限定盤)