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episode 0707 : Go Buddy Go

「通勤仲間」

 入社して早19年、今の社屋に会社が移転して既に15年以上が経つ。
水天宮前駅からIBM箱崎ビルの中庭を抜け、豊海橋を渡る10分程の通勤ルートは社屋移転以来変わらない。毎日同じ時間に家を出て、同じ時間の電車に乗る。
そして、ほぼ毎日、同じ女性とすれ違う。

 彼女は、いつも永代橋方面から目線と顎を上げ気味にゆったりと歩いてくる。品の良いブラウスに膝丈スカート、柔かいジャケットに仕立ての良いローヒール。生活感がなく、見るからに身持ちの良さそうな50代の「勤続30年、30代で自宅を購入し、丁寧に一人暮らししている自立した女性(イメージ)」だ。残念なのが、丸顔に黒縁メガネの印象が強すぎて、金正日を彷彿させることだ。

 「正日さん」は毎日同じ時間に同じ場所を通過するので、どのポイントで彼女とすれ違うかで自分の出遅れ度合がわかる。豊海橋先なら楽勝、箱崎ビル中庭なら標準、日本橋高校前だとイエローゾーンだ。水天宮前駅の出口階段を降りて来る正日さんとすれ違う時はさすがに冷や汗ものだ。階段をダッシュであがり、ワイヤーアクションで会社に転がりこむ。不思議なのは、私が会社を定時すぐに退社すると、駅で出口階段を上がってくる正日さんに会う事があるのだ。正日さん、一体何の仕事をしているんだろう。気になる。そして毎日すれ違う私の事、憶えてくれているかな?目線が上だから気づかないか。

 私はいつも前髪を眉上2cm位に切り揃えているが、この間すれ違った時、正日さんの前髪がばっつりオン・ザ・眉毛になっていた。ヘアカットの参考程度には貢献しているようだ。縁もゆかりもない方だが、これはもう立派な通勤仲間だ。今後お互い勤め上げるとしても、たぶん年齢的に彼女のほうが早く定年を迎えるだろう。その前に、一声かけるのが今の夢だ。

Jul. 2007

追記 Oct. 2015
これを書いてから数年後、正日さんとはすっかり会わなくなりました。そのかわり、ルートは違いますが行きと帰りが定刻の場合必ずすれ違う女性が再び出現!私より一回り若そうですが、いつも足首が見えない超ロングのびらびらスカートにゆるゆるチュニック、長い髪はてっぺんで結上げ、顔は薄口ですが全体の印象が非常にファンキーで、何を着てもタイダイに見えるので「ファンキータイダイ」と呼んでいます。