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episode 0910 : The lovers at Tokyo Station

life is life

「恋人たちの駅」

 秋だ。たまにはしっとりと恋の話でもしよう。

 東京の表玄関・東京駅は、昇降客が1日60万以上と大変な数の人々が去来する。近年の丸の内再開発で、商業施設の充実は目を見張るものがあり、会社からも徒歩圏内なので、残業帰りに同僚と散歩をかねて立寄り、買い物や食事をして帰る事が増えた。行く度に新しい発見があり心惹かれるが、お互い手早く食べて帰りたいのもあり、結局駅構内の回転寿司に辿り着く事が多い。文字通り人の回転も早く殆ど待たされないし、その時の空腹度によって小腹も大腹も満たせるのも良い。そして圧倒的な昇降客数の功罪か、時として目が釘付けになる変なカップルに出会えるのも、お楽しみの一つである。

 この間、回転カウンターの丁度向いに座っていた中年カップルも変だった。どうも、女性より男性の方がお熱のようで、構造上横並びで座っているはずの体が寿司を一口、酒が一口進む毎に彼女の方へ向き、しまいには完全に横へ向いて、頬を紅潮させて端から見ても手に取れる程盛り上がっている。一見出張帰り風な彼が夢中になっている相手の方はというと、ぞんざいに平積みしていた古いマネキンのかつらみたいな藁色の髪をした、60過ぎに見えるが実は40代かもしれない疲れきった女性で、彼と目を合わすことも微笑むもなく、くすんだ白い真顔をこちらに向けて淡々と酒と寿司を口に運んでいる。昔はさぞ奇麗だったんだろう、浮名も流したに違いない、とすべてが過去形の賛辞しか浮かんでこない彼女と、横の彼。全方位で婚姻関係で結ばれた二人には見えない。昔の女かな…お寿司、美味しいのかな…こっちの寿司も進まない。

 だがもっと割切れないのが、歩くたびにヒールが八の字に歪む安物のサンダルを履いた足で、いい加減な振り子のようにぐらつく歩幅を刻む疲れた女とつまん
だ、たかが回転寿司の支払いに、男がおくびもなくレジで領収書を切らせていた事だ。楽しい時間の精算は会社かよ!そんな関係、早く清算しろよ!!二人は寿司屋を後にし、彼だけが嬉しそうにそのまま二人で消えていった。

…あれ?恋の話をするつもりが、結局いつもの通り変な人の話になっちゃった。

Oct. 2009

追記 Jul. 2015

その後、この回転寿司屋は東京駅構内再開発の為、閉店しました。せっかくのホットスポットだっただけに、色々な意味で残念です。諸行無常。