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episode 1007 : Thriving or not

「拡大路線」

 地元西武線某駅前に昨年末、若い大将が一人で切盛りするたい焼きやができた。
営業時間は12時から夜8時までで木曜定休、3人も入ったら動けない程の手狭な店だが、定番の小倉あん、カスタードに限定の味が一つ、と3つの味があり、昼時には焼上がりが追いつかない程の人気ぶり、夜も売切御免で6時には店じまいをしてしまい、会社帰りに買えた試しがなかった。やっと買えたらどれも絶品で、僅かにクッキーのような軽さのある皮に煮詰めすぎないあんこやカスタードが幾らでもいける美味しさだった。「小豆は十勝産大納言!」「鬼ザラ糖使用!」と、材料にもこだわりがあるようだが、何より皮が気に入り、忽ちファンになった。
ある日半端な時間に買いに行き、大将に「たい焼き、凄く美味しいけど、あんこやクリームも自家製?」と頼みがてら聞いたら、流れ作業のなか笑顔一つなく、

「業者から出来合いを買ってきてるんですよ。一人じゃ出来ませんよ、そこまで。はい、ありがとうございました」
と、吐き捨てるように言いつつ、たい焼きを渡された。

で、出来合い…せめて「美味しいあんこやさんに、作って貰ってるんですよ」とか、ものは言い様じゃないのか。受け取ったたい焼きも、何となく、違う物になってしまったような気がした。それからは、自分では買わなくなった。

 そして5月、私の父が亡くなった頃から、大将一人でやっていたはずの店に、どうみても昨日までニート、みたいな20代の若者が基本二人組でたい焼きを作って売るようになった。髪を藁のように染めた汚い女の子が、ロン毛のまま一人で焼いている事もある。しかもバイト数はざっとみただけでも最低4人は違う顔。年中無休になり、営業時間を前後1時間ずつ延ばして11~9時までになった上、とうの大将は全く現れなくなった。先日、納骨から帰ってきた後、主人がたばこを買いに出たついでに、労いのつもりでたい焼きを3個買ってきてくれた。うち1個は定番のあんこ、あと2つは限定のベリーベリークリームだった。あんこのほうを半分こにして、まずはベリーの方を食べてみたら、

ま、まずい・・・

とにかく、皮がまずい。まだ暖かいのに歯でかみきれない位堅くて、ちょっと苦みさえ感じた。中身はどうせ出来合いのジャムとカスタードだから、どうって事ないが、皮がまずくてどうしようもない。ということは、と次に分け合ったあんこの方を食べたら、同じく皮ががちがちで、同じ店のものとは思えない豹変ぶりだった。先週9時前に店の前を通りがかったら、藁頭の女の子とともにまだ30匹は売れ残っていた。

春までの登り調子で欲をかいたか、どこかに次の店舗を展開でもしてるのだろうか。すでに本丸はこれで撃沈、これからますます暑くなる夏に向けて売上にも影響があるだろうに、秋まで持つか、雲行きがにわかに怪しくなってきた。残念だ。

Jul.2010

追記 Jul. 2015
その後たい焼きやは閉店、現在同地はリサイクルショップになり、かつてここに人気のたい焼きやがあった事は町民にとって忘却の彼方となりました。諸行無常。