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episode 1106 : Gimme, Shelter ! : one

「ギミー、シェルター!(前編)」

 一昨年より私も毎年参加する事になった、主人の大学OB音楽サークル合宿の事前会合に参加した。会合では合宿で演奏するバンドや曲が参加者によって正式に決まり、その日より合宿本番に向け一ヶ月、各バンド怒涛の練習が各地で繰り広げられる。練習も含め、恒例の年中行事となっている。

 会合では先輩の1人から女声コーラスをやって欲しいと声をかけられた。先輩連の席に伺い、演るのはあのバンドのあれとあれ…と簡単な説明を受けた。そのバンドのオリジナル曲は聴いた事がないが、若い頃好きだったバンドがカバーしていて結構好きだったし、あの曲のコーラスって、あ~あ~言ってるだけだよな、と特にためらいもなく快諾した。するとそれまで黙っていた別の先輩がいきなり私の両肩を掴み「君!やってくれるか!本当にやってくれるのか!!」と激しく揺さぶった。「そうか、嬉しいなあ!」「乾杯だ!」「完全コピーを目指すぞ!」他の先輩達も猛烈に喜んでいる。だが、祝杯に混じって「じゃ、革のホットパンツとブラジャーで来てね」「顔を黒く塗ってね」という聞き捨てならない声も飛び交っていたが、先輩達、悪乗りだなあ位にしか受け留めていなかった。帰り際「あの、元曲聴いた事あるの?」「ない」と主人と問答しているうちが華だった。帰宅後主人に「これだよ」と聴かされ、事の重大さに凍りついた。ほとばしるソウルで破壊力満点、ばりばりの黒人シンガーが怒涛の表現力で歌い上げていた。

 コーラスとは名ばかりで途中見せ場のソロパートもある。しかも自分とは音域の全く異なるハイトーンボイスだ。知らぬが仏、安請合いも甚だしかった。心を落ち着けようと動画サイトで検索すると、ボンデージファッションに身を包んだド迫力のシンガーがボーカリストを押しのけステージから観客を挑発しており、益々恐ろしくなった。とはいえ合宿まで後1ヶ月、ここで辞退しては先輩達に迷惑となる。全員での練習は本番までに2回しかない。出来る限りの事はしようと、歌詞カードを用意し、通勤の行帰りに必死で原曲を聴いて初練習に参加したが、結果は散々で、高域に声が届かず、もともと声だけは大きいので別の意味でもの凄い破壊力となって曲を粉砕してしまう。2度目の練習までにカラオケボックスで自主練したが、先輩達の期待は高まる一方で、元曲にない所で急に「俺のサックスに絡んでくれよ!」だの「裾からがに股で歩いて来い!」と大弱り。高音が苦しいのでオクターブ下げさせてくださいと頼んでも「極限状態でブチ切れて下さい」と全員却下。だが冷静にあたりを見回すと、初回より2回目の方が演奏が下手になっている人もいれば、腹を壊して欠席のパーカッション、本番まで練習に来れないリードボーカル、元曲と関係ない展開で歌うガイドボーカルはたまたまそこに居合わせた別の先輩だった。私の緊張とは裏腹に先輩達は到って適当、合宿を来週に控え、ステージの裾からがに股で現れる私に勝算はあるのか?ああ、穴があったら入りたい。シェルターがあるなら俺にくれ。次回、衝撃の合宿本番!

Jun. 2011