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Humble Mumble その24:「ケス」(KES 1969 UK by Ken Loach)

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私の英語は非常にいい加減である。中学の時は英語が大嫌いで、長じて高校2年で音楽を通して歌詞やアーティストの記事の意味が知りたくなり開眼、独学で辞書を引き引き、米軍放送を聴きつつ耳を慣らしたものの、時すでに遅し。Queenと漫画にうつつを抜かし、浪人決定!当時クラスで浪人した女子は私を含め2名だった。ロックを聴いてるのも男子2名と私だけだった。やっと入れた大学も滑り止めの法学部"(-""-)"。「阿呆学部」と、よく父に揶揄された。
そんな私が巡り巡って、経費削減のため、昔、妹のコネでUKデスメタルバンドの同行通訳(私に頼むなんてスッゲー、いい加減!!!)をした事があった。メンバーは全員入れ墨、ロンゲで恐ろしかったがマネージャーが苦労人の敏腕紳士で、日本人(sort of!)は若く見える事もあり、ペットのように可愛がってくれた。「君の英語はケンジントン訛りがあるね。どこで勉強したんだい?」
「North YorkshireのSkiptonデス!」ケンジントン訛りなど知る由もなく、マネージャーの反応たるや、大爆笑。「Leaning English in Skipton(羊の町の意)!!!ガハハハハッ!」
「It's a Yorkshire thing!」と冷めた表現があるほど、当地は訛りが酷く、日本で言えば、青森のズーズー弁のような、日本人が初めて来た羊ゴロゴロの村で3か月、国際交流活動に勤しんだ事が私の人生のターニングポイントにもなっているが、確かにYorkshireの方々の英語は独特でヘビーだった。(全員じゃないです。念のため!)自然が美しく、よそ者の私にはただただ夢のような時間だったけど!

ケス [DVD]

KESは朋友、Essex在住のPeter Hall(初期HMで紹介のFull Montyに登場。介護全う!R.I.P.)オススメの映画だ。50年も前の社会派(左翼?)ケン・ローチ監督初期の作品。「僕の大好きな映画なんだ!」て言われりゃ見たくなる。ネットで調べたら1999年英国映画トップ100の7位に君臨していたという。しかし、レビューがどれもこれも暗い。タヌに至っては可哀想すぎて最後まで見れなかったという。ハヤブサと少年の心温まる映画...なんかじゃない。とにかく訛りが凄い。アメリカ版は全編吹き替えられたほどだ。炭鉱しか産業のない貧しい町。母子家庭。何かと言えば体罰を振るわれるセカンダリー・スクール。(日本と制度が違うから...15歳で卒業。就職)ズルもすれば盗みもする、嘘もつけば喧嘩もする。何の目標もない主人公ビリーが、ある日ハヤブサの雛を手に入れ、飼育書を万引きして、早朝の新聞配達、つまんない学校をこなした後、懸命に育てていく。
彼の置かれている環境、先の見えない生活、炭鉱でだけは働きたくない。父親違いの年の離れた兄貴(炭鉱勤務)にはいつもボコボコにされっぱなし。母親も2回結婚に失敗しているけど、いい人がいたら落ち着きたい。でもね~そうはいかないのよね~。あと4か月で卒業。15歳で就職面談もある。ワルとつるんでタバコなんかも吸っちゃうから、校長室に呼ばれる。
ほとんどが素人を起用し、順番通りに撮影しているから、次に何が起きるか出演者はほとんど知らされていないという。それだけリアイリティに満ちていて、いや、満ちすぎていて、最悪のラストには涙も出ない。「これが現実か!」と。鳥は人に飼われているようでも、自由に空を飛べる。どんなにケスを調教しても、彼はどこにも飛び立てない。たまたま授業で最近自分の身近に起きた「事実」について何でもいいから語ろうというテーマの日、ビリーに白羽の矢が立つ。日頃無口でガリガリでひ弱に見える少年が、段々熱が入り専門用語を使い、臨場感たっぷりに飼育ぶりを語り始めると、何にも興味のなさそうな同級生たちも真剣に聞き入り、質問まで飛び交う。こんなに可能性を秘めているのに。
はなから「落ちこぼれ」「脱落者」の烙印を押されたビリーと仲間たちが校長室に呼ばれる。たまたま伝言を伝えに来た下級生まで巻き込まれてしまう。校長は怒鳴りっぱなし。生徒の意見なんか何も聞かない。体罰のひとつとして、西洋では両手の平を細い杖でひっぱたく。これ、本当に「叩かれるふり」ではなく、全員マジで叩かれている。この映画の有名なシーンだと言う。巻き添えをくって、葡萄のように大粒の涙をボロリとこぼす下級生と怒り狂う校長(顔も髪形も怖い)が主人公以上に、くっきり心に刷り込まれてしまいました。7位に君臨している映画だけに、英国人の魂には直球で響くものがあるのだろう。うん、うん、凄くよくわかると私が言ったら、きっとそれは嘘になる。映画の舞台はヨークシャーでも南部で、私が知っているヨークシャー北部とは全然違うのも考えさせられるものがありました。

PS.この後、たまたま見つけた「Versus The Films and Life of Ken Loach」(2016年ドキュメンタリー)を合わせて見ると、イギリスの知られざる部分が浮かび上がってきます。
お暇なら見てヨネ!

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