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ハンブルサーバントの独り言 Humble Mumble 12 シング・ストリート

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 生まれて初めてパーマをかけたのは、高校の卒業式の直前だった。好きなことにうつつをぬかし浪人することになってたので、勢いブライアン・メイ系のパーマにしてしまった。当時の技術ではQueenは無理だったようで、限りなくアフロに近く、「なぜ卒業式が終わるまで待てなかったんだ」と友達にも冷やかされた。あちこちピンで止めて卒業式に出たっけな。成人式の写真を撮るときには、いつまでも落ちないパーマのおかげで髪がまとまりがよくて事なきを得たが、同時代になぜか母の着物を着てアフロヘアで笑っている異様な写真が残っている。それも、いかり肩で手が長い。横にはまだ小学生の、パンパンにはちきれそうな妹が、母のお手製の服を着てオカッパで笑っている。この時代、この写真から好意的に想像できるのは、この姉はロックが好きなんだろうという事だ。
 
Sing Street1985年アイルランド、ダブリンが舞台だ。ユナイテッド・キングダムUKと極東の私たちはつい、じゅっぱひとからげにしてしまいそうだが、当時アイルランドは不況のどん底で、England本土にあてもなく夢を抱いて船で渡る若者が絶えなかったという。それもほとんどが挫折に終わるという...
15才の主人公も親が失業した上、不仲で私立から安い公立に転校することになる。兄は大学中退でひきこもり、存在感のない姉もいるが、とにかく家庭はいつもギズギズ、転校先でもいじめにあうが、たまたま出会った1歳上の自称モデルの彼女の気をひきたくて、いきなりバンドを組むことになる。自分のバンドのMVに出ないか?と藪から棒にナンパしてしまったからだ。ここからが凄い。バンド組まなきゃ!何ができるかわからないけど、メンバー探さなきゃ。とにかくこの映画は「懐かしい」!昨年の作品なのに、80年代の生活感や一般ピーポーのロック感を見事に再現しているのだ。今でこそネットで古いMVでも洪水のように視聴することができるが、当時は何もない中から自分たちの中に湧き上がるイメージを何とか形にして、ニューロマとかパンクとかハードロックとか、何かになろうとして、どんどん様々な音楽が生まれては消えていったんだろうな...今見ると笑っちゃうような、安いセットで、粗い構成で、酷いメイクで、それでもまだ自分の可能性もわからない中で、マックス自己陶酔できたのかも。
アイルランドの俳優さんたちがメインなので知ってる人はほとんどいない。でもその辺にいそうな赤毛の家畜系の坊やや、フーリガンみたいな悪ガキとか、とてもリアルでいい。80年代を体験した人なら必ず胸キュンな曲がドンドン流れていく。主人公も家に1台しかないブラウン管テレビで、デュラン・デュランを見ればソレ系の髪形にし、キュアーにはまれば次の日はロバート・スミオになっている。目をキラキラ輝かせてスパンダーバレエに心酔すればコートを着て背伸びしたり。実はロックの師匠とも言える引きこもりの兄貴が、何かと音楽に目覚めた弟にアドバイスをしていく。「彼女、大人の彼氏がいるんだ。」「そいつ車で何の音楽聞いてた?」「ジェネシス」「フイル・コリンズを聞く男に女は恋したりしない。そいつは敵じゃない」
終盤の妄想ダンパシーンは圧巻。どんどんレベルアップしてきた主人公の頭の中はマックス妄想!すべてがOn my side!不仲な両親でさえノリノリ、さえないオタクの兄貴も君の心の中ではこういう風に映ってたのか...
現実は厳しいけど、何が待ってるかわからないけど、最後は小さなボートで嵐の中、50キロ先のEnglandに彼女と旅立っていく主人公。いや~、色んなものに刺激されて、触発されて失敗を繰り返してきた自分をあちこちに発見できた久々の名作でした!DVDCD取り寄せ中(笑)

 

シング・ストリート 未来へのうた [DVD]