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ハンブルサーバントの独り言 Humble Mumble 19 : 光をくれた人 The Light between oceans(2017)

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見終わった後、場面場面を思い出すたびに、どんどん悲しみが蘇ってくる、地味だけど忘れられない作品になりそうです。

 

知らなかったけど、超セクシ―俳優として、絶賛ブレイク中だというマイケル・ファスベンダー。役によって全く個性が変わる方のようで、黒人差別問題を取り上げた「それでも夜は明ける」で猛烈に酷い農場主を演じていたあの人!「ジェーン・エア」のあの旦那様!「アサシンクリード」の、あの末裔!「Shame」という作品では全裸で本当に恥ずかしい役を熱演してるというけど、私の中ではこの作品の主人公トム=本人で留めたいほど役になりきっていて素晴らしかったです。

お相手は「リリーのすべて」でリリーの奥さんを演じていたアリシア・ヴイキャンデル。

?光をくれた人 [Blu-ray]

 1918年末。多くの尊い命が失われた第一次世界大戦後のオーストラリア西部の町。160キロ先のヤヌス島の灯台守の仕事につくトム。フランスの最前線で4年戦ってきた元軍人。相当の地獄を見てきたのだろう。おそらくは何人か殺めてもいるのだろう。灯台の前任者は病んだ末自殺。「あんな辺鄙な場所の灯台守なんて、誰も希望しないのに」と不思議がられるも、「孤独は覚悟の上。家族も誰もいない。とにかくひとりになりたい」と志願。自分は決して幸せになってはいけない人間だと、暗く無口で、まるで自分に呪いをかけているかのように。

しかし、町の名士の娘、聡明で快活なイザベルと魅かれあっていく。イザベルも兄二人を戦争で亡くしている。「奥さんは夫が亡くなると’寡婦’になるけど、「母」や「父」はそのままなのよね。違う呼び方がないの。私も「妹」のままなのかしら。」

 

島には灯台守しか住んでいない。それでも望んでイザベルはトムと結婚する。「もう一度生きてもいいのかもしれない。」心を開いていくトム。いつも風がつよく厳しい環境。誠実に働き、仲良く暮らしていくものの、イザベルは流産を繰り返す。丘の上に「remembered always」と記された小さな十字架が2本。心を病みそうな時、奇跡が起きる。手漕ぎボートが浜に漂着し、男性の亡骸と生後間もない女の赤ちゃんが乗っていたのだ。

すぐに本土に信号を送らなくては!使命を優先するトム。しかし「これは偶然じゃない、神様が赤ちゃんを送って下さったのよ。私たちは何も悪い事はしていない!」選択の余地のない切羽詰まった妻の悲願に折れ、二人は「早産」ということにしてルーシーと名付け自分の子として育てる事に。なんという幸せ、喜び、すくすく育っていく「娘」。

しかし洗礼のため訪れた本土の教会の墓地でトムは墓前で泣いている女性を偶然見かける。墓碑には「愛しい夫、娘グレース、海に消え、神のみもとへ。4月26日」ボートが漂着した前日の日付。

そこから夫婦の苦悩が始まる。罪の意識に苛まれ、「赤ちゃんは無事です。夫君は神の御許で安らかに」とメモをポストに入れてしまうトム。さらには当時手漕ぎボートに落ちていたフクロウのガラガラまで匿名で送ってしまう。

亡くなった男性はドイツ人だった。墓前で泣いていた地域一の富豪の娘ハナも敵国ドイツ人との結婚は猛反対される。周囲の風当りも強い。それでも幸せだった。子供も産まれた。

「あなたは辛い思いを沢山してきたのに、いつもハッピーそうね」回想するハナ。「一度赦せばいいんだ。いつも憎んでいると疲れてしまうだろ。」子供をあやしながら笑う夫。しかし、多くの家族を失い苛立っている地元民に嫌がらせをうけ、さすがに危険を感じ赤ちゃんを連れて手漕ぎボートで海に出てしまう。元々心臓が弱かった彼は海上で息だえてしまう...

捜査の手が伸び、引き離される「親子」。もう4歳、実の母に懐かない娘。すべての罪を被り死も覚悟で一切言い訳をしないトムの姿が痛い。「一度赦せばいいんだ」と言いながら不条理に命を失ったドイツ人男性。この映画の登場人物はみんな傷ついている。

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数十年後、一人余生を送るトムの元に若い女性が赤ちゃんを連れてやってくる。成長したルーシー・グレースだ。法的に会うことは禁止されていた。もうイザベルは他界している。それでも会いにいきてくれた。別れ際、老いたトムをハグするルーシー。その刹那、ひとこと私の心に浮かんだ言葉、「Forgiven」泣きました。