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Humble Mumble その23:「15時17分、パリ行き」(The 15:17 to Paris, U.S.A.2018) あるいは台湾高速バス

 

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私は国内外を問わず乗り物が大好きだ。馴染みのない街とかで、フイっと乗ったバス、電車、タクシー、その車窓から見える風景、田舎道、自力では決して歩いて見回ることのできない場所。

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台湾高速バス 外観(左)、内装(右)ともに豪華なのだが…

そこに住む人々の生活ぶりに思いを馳せたりして、ボーッとするのが至福の時間。忘れられない思い出もできたりする。数年前、台湾に行った時台湾の旧友夫妻が台湾内のプチ・トリップに誘ってくれた。風光明媚な景勝地、日月潭。台北から高速バス。これが凄かった。大体2階建て。時間はかかるが、ハデなデコレーション、席も案外贅沢なくせにダントツお安い。乗り込む時の階段が異様に幅が高くて、フーフー言って乗り込む。車内のトイレがアンビリーバボー!険しい階段の脇あたり、ちょうどエンジンの上あたりに、人間がやっと入れる、ステンレスの「和式!」のトイレがある。紙はない。この絶望感!風もビュービュー吹き、それもエンジンの上なので内部は物凄く煩い。爆音を放って走行中、このトイレは生きた心地がしない。ブッシャーーーーーーッ、ゴオオオオオオオッ、ゲシャーーーーーーッ、つかまるところもなく、「和式」、もう、自分まで一緒に流されてしまいそうで、「お母さん、ごめんなさい!お母さん、ごめんなさいいいいっ!」と心で絶叫しながら、ゼーゼー言って席に戻った。友達は「プ」慣れてるのね。そう旅先では何があるかわからない。

 

15時17分、パリ行き(字幕版)

御大クリントイースト・ウッド監督(87)の最新作、「15:17分、パリ行き」は2015年に実際にヨーロッパ高速鉄道タリスで起きた、無差別テロ事件、いわゆる「タリス銃乱射事件」だ。タリス!2018年4月に初めて妹と二人で乗ったばかり!でも30分でアントワープついちゃったけど。この映画の現場がアムス発のタリスだと気づいた時、鳥肌が立ちました。

8歳から幼馴染の主人公3人は、どこにでもいる普通の青年。子供の頃は問題児でしょっちゅう校長室に呼ばれ、スカタン人生。長じてアメリカ軍に入るも、何かいつもかみ合わない。希望の部署にも入れない。子供時代の情けない思い出と、現在の軍での彼らの姿が交互に巧みに描写されていく。どんなに努力しても報われない虚しさ、どこか不器用。やりたいことがみつからない、ここで自分は何をしてるんだろう。それでも子供の頃から「神様、僕を平和の道具に使って下さい。アーメン」と祈ってベッドに入っていた。

そんな中、カードを使って、思い切って夏休み、初めてのヨーロッパ旅行に。皆配属先が違うので現地集合。とても丁寧にローマやベニス、アムスをセルフィー撮りまくりで満喫する青年たちの姿が超リアルだ。(「インスタ映えする」ってのが「Instagram Worthy」と言うのも初めて知ったけど。知ってた?) 

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再登場 タリスと筆者 2018年4月27日 9:30分、パリ行き

 それもそのはず、この監督のすごいところは、この映画の主人公たちは素人だが事件に遭遇した「本人達」に演じさせたというところだ。それもセットではなく、実際の列車を貸切り、走行中の自然光で撮影されている。554名を乗せた列車。フランス国境に入った頃、神に命を捧げる覚悟で300発の銃弾を持ち込み、大量無差別虐殺を目論むひとりのイスラム過激派テロリストが行動に出る。一人だけ犯人に撃たれた乗客も「本人」が演じている。監督が常々描きたかったのは、単なるヒーローものではなく、「人生を左右されるような動きを取った人々の動機」だという。誰の日常にも起きうる現実。ダメダメ人生だったけど、ずっと自分を活かすことができなかったけど、事件に遭遇した時の青年たちの咄嗟の判断は神対応だ。結局、ひとりの死者もでなかったのだから。何の役にもたたなかったことが、結局積み重ねてきた経験として、何ひとつムダなものはなかったと、後日、本人達も語っている。勲章まで貰ってよかったね!

 

なお、前出の台湾高速バスは年末、姉妹で台南に向け初トライする予定。トイレの改善向上を祈りながら!Go Ahead Make My Day!!!