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ハンブル・サーバントの独り言 Humble Mumble 4 リリーのすべて The Danish Girl

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台湾の親戚と初めてタイに行く事になった時、適当に購入したガイドブックでタイは国民の約1割がレディ・ボーイだという衝撃的情報を得た。確かにその筋のコンテストもあり、日本のタレントが優勝するくらいだから、その手の方々が生きやすい国なのかもしれない。でもタイ料理は大好きだけど、78歳~5歳のグループで行くから、「オカマ・ショー」は見れないよな~...と、漠然と思っていた。

しかし!タイは8月12日が皇后様の誕生日兼「母の日」で、国中「母」はロイヤル・カラーのブルーを着てお祝いするという。その日バンコクにいた私たちグループの中に「母」が3人いたので、夜はタイで庶民的イベントにもなっている、豪華クルーズ・ディナー・パーティでお祝いする事になっていた。クルーズ・ディナーというと優雅に聞こえるが、ここも乗船の時、えらい混雑で狭い階段を上がったり下がったり、押すな押すなの阿鼻叫喚。ヒーヒーいって席についても、ビュッフェ形式なので、どつきあいながらいちいちお料理を取りに行って食べる。夜景は綺麗だけど、名もないその辺の小さな店のほうがよっぽど安くて美味しいのに~と思いつつ、必死に寿司になろうとしている食べ物や、固いローストビーフ、なんかわからない焼きそばとかで平静を保っていたら、「来たよ!来たよ!」と皆が騒ぎ出す。ディスコビートにのって、天井まで届きそうなデカイ、でも本当に綺麗なレディ・ボーイが豪華絢爛なドレスで客席をぬって次々登場。歌はアテブリなので、安心して聞けるし動きが綺麗。最後はお気に入りの「彼女」と一緒に写真も撮らせてくれる。後で撮った写真を見たら、なんて、まあ、綺麗なこと。嵐の中でも崩れないようなメイク。見事なボディライン! 思いがけず本場レディ・ボーイに会えました!

 

リリー・エルベ(アイナー・ヴェルナー)は1920年代に実在した、世界で初めて性別適合手術を試みたデンマークの男性だという。

映画だから相当な脚色はしていると思うけど、画家同士の夫婦。妻が夫にちょっと絵のモデルになってくれと、ストッキングやバレェのチュチュをあてがった所から、彼の中に眠っていた「女性」が徐々に目覚めてしまう。まだ、トランスジェンダーとかの概念のない時代。同性愛だというだけでも激しい弾圧、差別を受けて当然な時代に、「自分は本当は女なのでは」と苦悩するリリーを、どう見てもすてきな若者エディ・レッドメインが体重をうんと落として熱演している。早くはレ・ミゼラブルで、近年ではスティーブ・ホーキンス博士役を演じてアカデミー賞を受賞した彼だ。繊細な目の動き、身のこなし。息をのむほど綺麗に女装して訪れた病院。妊婦さんへの憧れのまなざし。そこでのやりとりが辛い。

「赤ちゃん、いるのね」「そうよ。あなたも?」「私は病気だから治してもらうの」「治ったら赤ちゃんが生めるようになるの?」「......」結局、危険すぎる手術で彼は命を落とす。

タイのオカマちゃんや先に亡くなったピート・バーンズ様も、相当なお金をかけて美を追求していたのだろう。でもリリー役を演じた彼は整形手術など一切せず、全身全霊でここまで見る者を圧倒してくれた。リリーが求めていたのは「美」ではなく、「自分らしさ」という「魂」なんだと納得できるほど。1回目の大手術の後、少しだけ百貨店の香水売り場で女性として水を得た魚のように働くのだが、LPT読者にはその場面もキュンとなるかもしれない。見てみて。

 

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