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episode 1208 : nephew K's extraordinary life chapter II

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「甥っ子Kの非日常Ⅱ」
 
 父が逝って3度目の夏が来た。毎年旧盆に催される霊園での行燈供養に今年も姉妹揃って参加した。今年は、長らくの地方ゲーセン赴任が昨春漸く終了し、
晴れてゲームソフト開発会社の本社勤務となり東京に戻ってきた甥っ子Kも来てくれるとの事。本社でも忙しく、月間120時間もの残業をこなすKにとってたった2日間の夏休みのうち1日をお墓参りに充ててくれる彼の優しさに感謝した。

夕刻霊園につくと、既に蝋燭の灯された行燈がお墓の前に幾つも並べられ、幽玄なあかりがほんのりと揺らいでいた。夕空はあっという間に夕闇となり、行燈に照らされた各々の顔もはっきりと見えない程に暮れた頃「これより、卒塔婆供養を行います。皆様、黙祷をお願い致します」と放送が入った。1年間、墓石に寄り添い故人を弔い続け、風雨に枯れた卒塔婆を供養すべく、お焚上げを行うのだ。お焚上げは行燈供養のクライマックスで、多くの人がお焚上げの壇へと集まっていった。行燈供養初参加のKも興味津々「それでは火点します」の合図と共に「僕、見てくるよ」と火点された壇へと走っていった、が…

「…卒塔婆、くせぇ!!!」Kが壇から爆笑しながら一目散に逃げてきた。

何と、卒塔婆は火点される際ガソリンを撒かれ、物凄い勢いで火柱を上げて燃え盛っているのだ。風下にいた私達の方にもガソリン臭が流れてきて、油煙をあげながら周辺の木立より一段高い火柱を上げる卒塔婆に、祈りを捧げるどころではない。しっとりと暮れた行燈の灯りが記憶から吹っ飛ぶような火焔を後に、墓参客は我先に最寄駅と向かうピストンバスに乗り込んで、火災現場から逃げるように霊園から立ち去って行く。そう、行燈供養はいつも、ガソリンの臭いとはじけ飛ぶ黒煙で幕を閉じるのだ。

走り去るバスの窓から火の勢いが収まらない卒塔婆供養を眺めながら、そんな事はどうでもよいかのように、Kは車中で母親と激しく盛上っていた。翌日からまた残業の日常に戻る彼の、非日常的なお盆休みは、焔と共に終わった。

Aug. 2012