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Episode 1705 : The Disappointed / prologue

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練馬残念猫 序章
 
練馬に住み始めて19年になる。すなわち生まれてから来し方ざっくり6割を池袋、4割を練馬で暮らしたことになるが、実家も現在の住まいも賃貸住宅の為、基本的に動物は飼えない。こっそりインコや魚を飼ってもみるが、主人も私も実は大の猫好きで、しかも家では飼えない環境下にあるので、いつも猫欠乏症に悩まされている。それでは猫カフェに行ったり人のうちの猫と遊ばせてもらったりすれば気が済むかといえば、そうでもない。ある意味プロの猫や飼い猫は、しょせん仕事やご主人の顔を立てて我々の相手をしているのがありありとわかるので、不完全燃焼度が高いのだ。そのうえ二人とも猫に対する美的感覚が徐々に倒錯し、身ぎれいで整った猫ではなく、造作がまずい、例えばたった一つのひげブチのおかげで台無しになっている親父顔のメス猫や、3歳児のお絵かきにも似た、全身ほぼ水玉状態の見ていて不安になるような白黒バランスの悪い猫など、もうちょっとここがこうだったらよかったのに、といういわゆる「残念猫」系に眼がなく、ペットショップや猫カフェでは決して出会えない、残念柄の地域猫や真性野良猫の日常に、どれだけ食い込めるかが満足度の指針となってしまった。
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練馬残念猫 例1
 
ブサ可愛いのレベルを超えた、時に息をのむほどの残念ぶりに心が躍るようになってどれだけ経つだろう。しかもここ練馬は残念猫の生息率が非常に高いような気がする。戦前は農地だらけだった練馬は、空襲の被害もなかったのか、区画整理が全く行き届いておらず、あちこちに行き止まりや無駄な敷地が散乱しており、車が入ってきづらいため、野良猫や地域猫が運よく暮らしやすい立地になっている。放置住宅の庭で子育てし、近隣の方から着かず離れずに食事をもらい、平気で人のベランダで授乳していたり自分らが育った空家の庭で数匹玉になって暖をとったり、道路の真ん中で首をがっくり落として死んだように寝ている奴もいる。そういう、ある意味昭和の猫づきあいを彷彿とする距離感で、いつもどこかに猫がいる。しかも、かなり残念な面構えで。その中でも時折、突出して懐っこい猫がいたりもするが、さすがにそういう人当たりの良い猫は、昨今動物虐待の観点から危険な目に遭う可能性がある為、仲良くなったと思うと地域猫活動員のあっせんで、さっさと人に貰われていく。そして残るのは、いつも目が合うと一目散に逃げるか、様子を見て逃げるか、機嫌のいい時だけ触らせてくれてあとは逃げる、危機管理の行き届いた者ばかりで、その触るか触らぬかのせめぎ合いに、血中猫濃度がいやがおうにも向上するのだ。
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残念猫 例2
 
この悪癖は特に主人に強い。友達が飼い猫の写真を送ってくれるとだいたい普通に可愛いので、主人はあまり喜ばない。彼は血中猫濃度が低下すると挙動不審になるので、わざわざ地域の残念猫会いたさに通勤路を変え、練馬へ買い物に行くという名目で、近所の野良猫がいそうな道をくまなく通り、2割がた遠回りで練馬のスーパーへ行くのが毎週の恒例行事となり、週末は「ライフ、行く?」が朝の挨拶がわりだ。
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残念猫 例3
 
これから、今まで出会ってきた練馬残念猫の半生を、折々の出来事と共にひとつひとつ綴っていこうと思う。