LPT annex

whatever LPT consists of

マンプク宮殿19 キリンメッツ&かき揚げ弁当&YOU AND I

f:id:Tanu_LPT:20180626130148p:plain

 

「今年は過去最高の暑さ・・・」と夏が来るたび思っているような気がするが、実際今年は自分の体脂肪率の増加や高齢による体温調整機能衰え等を抜きにしても異常な暑さだった。過去形にしているのは現時点では通年の暑さに戻っているので一心地ついているからだが、予報によれば8月からがまだ猛暑再開との事。汗は滝のように流れるが体重は流される事もなく滞留→増加の兆し。そんなに暴食をしているとも思えないのが何故だ?暴飲だな・・・

 巷では学校に冷房を導入するしないで騒ぎになっている所もあるようで、導入否決した地域の議会では理由として「暑さに耐える根性も必要だ」という話も出たとか。熱中症で倒れたり死んでる人もいる中そう言える根性は見上げたものだが、彼の根性はクーラー無しで教室にいた事で鍛えられたのものなのだろうか?だったら議会も冷房無しでやってほしいものだ。より地方行政の課題について暑く(熱く)議論出来る事だろう。

 と言いながら自分が学生時期を過ごした時代、北東北地方の学校では冷房は必要無かった。今は実家に帰れば部屋にクーラーが設置されていて地球温暖化の影響はここまで・・・と慄く事もあったりするが、20年ほど前までは一番暑い時期でも窓を開ければ湿気が少く、涼しいカラッとした風が入ってくるので冷房必要無し、昼がいくら暑くても夜になれば気温が20度前後まで下がるので(砂漠みたいだが)寝苦しい夜とも無縁。
 
 高校制服の衣替えは関東地方と同じ6月からだったが、男はすぐ学ランを脱ぎ捨てると馬鹿にされるという妙な風習があった為、7月になっても全身黒い出で立ちで通学する愚か者が多かった。私も一時期は愚者の一人だったが湿気が無く涼しいとはいえ黒い厚手の上着を盛夏に着て快適なはずが無い。中に着る服がどんどん簡略化する。Yシャツ→Tシャツ→上半身裸の上に学ランと、字面だけ見れば本宮ひろし漫画の主人公、実際はあばらが浮き出た貧相な上半身を襤褸で包んだネズミ男がウロウロしてる風情と化した。最終的に学生服の背中に塩が浮かんできて白くなった段階で挫折。汚いし暑いし臭いし何も良いことないのに何をやっていたのか、今では死語になった「バンカラ」という気風がまだ残っていた地方だったのでその風にあてられたのだろうが。
 
 そんな季節の中、私は部活に勤しんでいたが、合宿したり強化練習などもなく暗室に籠っていた。(写真部に居た為)この暗室という存在、窓があるとそこから光が漏れて現像作業時に不用意な感光をする為、なるべく密室である事が望ましい。用意された場所は校舎の外、半地下部分にある運動部用具室が立ち並ぶ一角だった。ここは人が長く滞留する事を考慮された場所ではないため窓が無い(出入り用の木の扉のみ)、部屋の隅には排水溝が蓋もされず横切っている、電球も裸電球一灯のみという人の居住性という意味では最悪だが暗室という条件は全て満たした場所ではあった。

 アナログ写真をやった方でないと判らない話になるが、紙に焼く段階で停止液というものに印画紙を潜らせる工程がある、使用するのが酢酸という独特の酸っぱい匂いを放つ液体の為、部屋には常に劣化した酢を零したような匂いが漂っていた。

f:id:Tanu_LPT:20180801153648j:plain

Whatever Gentleman consisted of when he was a high school boy

 夏季は秋の文化祭の前準備、出品する作品を選ぶテスト焼きを行うため、夏休み中でも暗室に週一位は通うことになる。夏で気温は高い、常に酸っぱい匂いがする、排水溝にはたまにネズミが走っていたりする・・・そんな中、赤い電球(赤電球は印画紙に感光しない為)一つの中で蠢く輩達。昼になれば腹も空くが常に高校校門向かいにあるほっかほっか亭で一番安くて腹持ちが良い「かき揚げ弁当」260円+横の万屋で「メッツグレープフルーツ味350mlガラス壜」を買う。そして校庭に出て食べれば良いのに何故か暗室に籠って食べていた。私だけはなく部員全員が昼飯を部室で食べていた。なんであんな臭くて暗い場所でわざわざ昼飯を食べなくてはいけなかったんだろう?今あの環境で食べたらきっと吐いてしまうだろう。

 そしてこの時期に暗室作業中に聴くことが多かったのがYESのアルバム「危機」。B面1曲目「AND YOU AND I」(邦題:同志)という曲に夏を感じたのだろうか、よくリピートして聴いていた。今となっては全3曲のアルバムの中で一番聴くことの無い曲だが高校生の時に聴き過ぎたのだろう。いや、あの曲を聴くと酢酸と下水の匂いを思い出すからなのかもしれない。全然そういう曲では無いのだが。

 今年も8月中旬には帰省する予定。駅から実家戻る途中に母校の前を通る事になるが夏はいつも前を通る時に「AND YOU AND I」が私の頭内で再生されていることを横にいる妻は知らなかっただろう。同時に口内に安かき揚げの脂ぎった味が再現される事もだ。

 学校は私が卒業後改築されて校舎自体が別の場所に建て替えられている。あの暗室はもう存在しない筈だ。不思議とそれに関しては何の感慨も無い。

危機