LPT annex

whatever LPT consists of

マンプク宮殿5 南部煎餅と偽り

f:id:Tanu_LPT:20161225185214j:plain

 実家から東京へ出てきて驚いたのが食料品店の煎餅陳列棚に南部煎餅が殆ど見当たらない事だった。家の食卓上に煎餅が置いてあればそれはほぼ南部煎餅、それ以外のものは稀であった環境で育っていた私にとって地域的な食文化の差異を思い知らされた一件。食文化に於いて井の中の蛙状態だった私に更に衝撃を加えたのが音楽。逆の意味で。

小松製菓 南部田舎ごま 12枚×5袋
色々な地場メーカーが出していますが、東京では手に入りにくい南部煎餅 薄味な黒ゴマ付のタイプが最も定番

 

 テクノポップ→プログレ→パンクという変遷を辿った私は「パンクって格好良いけどバンドによってはただのロックンロールにしか思えないな。横浜銀蠅とかキャロルと変わんないようなのもいるし。」という不埒な考えをいだいていた。(どのバンドを指しているかは言わない)なんかもっと普通じゃない奇形な音、プログレとパンクが合体したような音って無いのか・・・と情報に飢えた私は音楽雑誌を読む事にした。

○ロッキングオン→せいぜいPIL位までしか取り上げてくれない。LED ZEPはもう沢山だよ!

○ミュージックマガジン→自分が興味持ったアルバムはことごとく中村とうようが0点つける。ロボコンかよ!今野雄二は興味持ったアーティスト取り上げてくれるけどこの人の文章嫌い。(お二人とも故人ですね・・・)

○ZIG ZAG EAST→書店で1回だけ見たがすぐ廃刊なったみたいで見当たらない。

○ロックマガジン→関西の雑誌で誌名だけは知っていたが売っている店がない。

 で、出会ったのが「FOOL’S MATE」。この雑誌は時期によって扱うジャンルの変遷が激しく紙媒体として発行していた最後の頃はビジュアル系バンド専門誌になっていた。私が見つけた頃は極初期のプログレ雑誌から海外のポストパンク、ノイズ系を取り扱い出す移行期の紙面構成だった。多分15-16号位を本屋で発見して読んでみると自分の知らないバンドがワサワサ乗っている中にTHE POP GROUPのライブレポートやクリムゾンの復活作disciplineの評論が載っている。これも故人だが当時の編集長北村昌士氏の文章で「今のクリムゾンを聴く位ならTHIS HEATの方が数段良い!」という絶賛を真に受けた私は丁度国内盤で出たばかりの2NDアルバム、DECEIT(邦題「偽り」)を買ってみた。

 Deceit [Analog]
原題、Deceit。邦題「偽り」 このジャケ、子供の頃超怖かった…

ジャケット、人の顔にキノコ雲がコラージュされたデザイン、裏ジャケもタイポグラフィーのコラージュで既に不穏な感じが全開。

 音聴き始めて・・・「キタキター!これこそ自分の求めている音楽!」と大興奮。曲の構成が奇妙に捻じれていて大音響から急にテープコラージュしたミニマルな音に展開。歌も童謡風のメロディーから一転してデス声の絶叫。そしてドラムの音が異様に格好良い。「こりゃあ凄い!超名盤!」と確信し家に遊びに来た友人や従兄達に聴かせたが皆「何?この根暗な音」とか「ビョーキだなあ・・・」とかまともに取り合ってくれない。

 こんな名盤をなんで周りの人は誰も判らないのだ!→でも雑誌でも凄く絶賛していたし、きっと東京に行けばこういうものを好きな人たち沢山いるはず!とミドルティーンならではの浅はかな思い込みに囚われた私はそのままの状態で東京へ出てきた。

 結果、東京でもあまり知られていなかった。地元では学校で自分1人だったけどこっちならクラスに1人はこういう音聴く奴いたりするよね!と思っていたが、友人に「あー、あんたが好きなような音楽を聴く奴なぞ学年で1人か2人位なもんだったよ」と言われやはりマイナーなものはどこ行ってもマイナーなのだなと思い知った18の秋。

 東京に出てくれば様々な文化が百花繚乱と思いこんでいた浅はかさを俯瞰で見られる歳にはなった。南部煎餅は地元の駅で土産物の目玉として盆正月は凄まじい勢いで売れていく。でも未だにTHIS HEATは辺境の世界で密かに聴かれているだけだ。南部煎餅を食べる回数とTHIS HEATを聴く回数だったら圧倒的にTHIS HEATを聴く回数が今でも多いのだけど。まだ浅はかな思い込みだけで生きているのかも知れない。 

岩手屋 おばあちゃんの南部せんべい しょうゆ 12枚×5袋ジェントルマンが薄ゴマ味の次に好きなのが、この薄ゴマ味に醤油を塗った醤油煎餅。彼は上京するまで醤油煎餅といえばこれの事だと信じて疑わなかった