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マンプク宮殿9 ホヤとヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーター(後編)

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私が中学生の時出版された北村昌士氏(故人、当時は音楽雑誌FOOL'S MATE編集長。)の著作「KING CRIMSON 至高の音宇宙を求めて」という書籍、乏しい小遣いの中から必死で入手し何度も読み返していた。(今でも手元にあるが手垢と破損で見るもおぞましい状態)巻末に在籍していたメンバー参加作品の異様に詳細なディスコグラフィーがついており、何せメンバーの出入りが激しいバンドだった上に皆様それなりに腕の立つ方々だった事もあり、「え!なんでこんなアルバムに?」というのがちょこちょこ載っていた。BAD COMPANY、LEO SAYER、T-REX等、音の志向性がまるで違うものから、山口百恵というどう考えてもお仕事で受けただけであろうものまで(数年後杏里のアルバムクレジットにもメンバーを見つけて更に驚くのですが)玉石混合具合がたまらない。
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 その中でもやはりリーダーで最初から最後まで在籍し続けたROBERT FRIPP翁参加作を重点的にチエック。購入したり友人から借りて聴けたものは「○」でチエックを入れていく作業が始まった。他のメンバー参加作も併せてELP,YES,ROXY MUSICは難易度1、PETER GABRIEL,GENESIS,UKあたりが難易度2、TALKING HEADS,BLONDIE,DARYL HALLあたりのアメリカ勢は当時は興味無いので後廻し。ここからが一挙に難しくなり過去日本盤が出ていても廃盤かそもそも日本発売されていないものが目白押し。FAMILY、JACKSON HEIGHTS, FRUUP, MUSIC INPROVISATION COMPANYあたりは地方都市ではまず見つけられない。その中でも一番欲しかったのがVAN DER GRAAF GENERATORというバンドの作品だった。
 このバンドの3rd,4thアルバムでROBERT FRIPP がギターを弾いているという事で探してみる。当然の如く見つからない。レコード屋の店員さんに質問しまくって(嫌なガキだ・・・)判った事は
このバンド、数作は国内盤が出ていた。が、今は全て廃盤。探すなら中古盤や輸入盤店を探すしかない。いつもながら苦難の行軍を思わせる展開にも慣れてきたいたがとりあえず当時懇意にさせていただいていた中古盤屋の店長さんに入ったら連絡を貰えるようお願い。併せて最寄りで一番の大都市、仙台市の輸入盤屋の店名と所在地も調べだす。最悪、夏休みにバスで仙台市へ行き探すことまで考え始めて数か月、中古盤屋さんから連絡があり1枚入ったとの事。タイトルも確認せず向かった店先で見たのは黒字に白抜きでバンド名、赤字でタイトルが印刷されただけのプログレというには不愛想でどちらかといえばパンク系の趣があるジャケット。

Godbluff

 「GODBLUFF」というタイトルのこのアルバム、後に判ったのは一度解散した後の再結成第一弾アルバムだったという事、裏ジャケに小さいメンバー写真が出ているが4人編成、各々楽器を持っているがベースが居ない・・・写真ではボーカルがギターをさげているが実際の音では殆どギターは聴こえて来ない・・・このバンドは歌、オルガン、サックス、ドラムという「ロックバンドとしてそれはどうなんだ?」と問い詰めたくなる編成、「ああ!ギター専任メンバーいないからROBERT FRIPPに録音では頼んだんだ。」と納得したが、全4曲、アナログ片面各2曲のアルバムに針を落とすと最初に聴こえてきたのは「ポッ ポッ ポッ」と寂しく鳴るサックス。不安不安不安不安々々・・・・。そこに入ってきた超ナルシスト丸見えの歌声。「あ?まあ恰好良い?」と1曲目終えて2.3.4曲目と一通り聴き終えた最初の感想は「悪くないけどやたら荒々しいしエグ味のある音だな」という感じで意外と凡庸。それでも買ったからには毎晩何度も聴き続けるのだが1週間ほどだったある日、B面に変えて三曲目の「ARROW」という曲を聴いてる時、囁くような歌い方から一転、怒号のような叫びに変わる部分で本当に突然、月並みな表現になるが「感動」した。
 「腑に落ちる」という言い方になるのか、歌詞の内容もまるで判らない、この作品のバンドの中の位置づけ、意義、外部からの評価など一切判らない状態にも関わらず生意気にも「このアルバムを俺は今完全に理解した!という想いでその晩は何度もこのアルバムをステレオでかけ、カセットに落とし部屋のラジカセでヘッドホンで聴きながら夜更かしをして聴き続けた。
 
 最初に聴いたとき感じた、歌のクドさ、曲の構成の極端さ、ギターやベースが出てこない代わりにサックスがこれまたクドく暑苦しいフレーズで前面に出てくる、ドラムは異様にドタドタした重戦車のようなリズム、結界のように張られたこれらをクリアしてみるとその先には魅惑の世界が。そこを魅惑に感じる人間は少ないにしても。
 今でも新譜が出れば必ず購入してまで聴く音楽、齢を重ねそういう偏愛が少なくなった今でも彼らはまだその中に入っている。
 
 彼等の音を聴き始めたあたりからホヤの味も判るようになってきた。単なる偶然だとは思うがエグ味の先に愉悦がある、という部分は共通するところがあるようにも思える、その魅力をどう説明しても殆どの人には拒絶されるが一部に偏愛の対象になる部分も同じだ。
 
 今も私はVAN DER GRAAF GENERATORを聴いており、これから酒を飲みホヤをつまむ。
 
最高じゃん!
 
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Least We Can Do Is Wave to Each Other