この香りがすると、あの人を思い出す。あの香水の匂いはあの時の、あの場面を...LPTの読者の皆さんは当然、ハードコアな香りの愛好家ばかりでしょう。色々思い出もおありでしょう。LPTに巻き込まれていながら、タヌの熱意に押され、ここまで手伝っていながら、何を隠そう、ハン１は香水のことはいまだに好きか嫌いか、それだけしか分かりません。香水を買ったこともありません。ヒゲを切られた猫のように、皆さんが熱く成分や感想を語り合っていても、ハン１は「ぽっか～ん」なのです。
でも、うちの母はいい香りがしたな。その程度で、心は熱くなります。病気がちだった母はもとが美人なので（ほんと！）元気な時でも化粧もせず、特に香水もつけず、それでも抱きしめるといい匂いがしました。
「ママ、いい香り～」「そうかな～、クサイって言われるよりいいわな！」この会話よくしました。父の寝室のかどっこの、風通しが悪い場所にいつもタオルが干してあって、それが猛烈に臭くて、真夏の満員電車で同じ匂いがするオジサンとか遭遇すると、妙なデジャブ感に襲われ、すごくイヤだった。
映画「パフューム」は香水好きの方なら、とっくに見てる作品かも。18世紀パリ、世界で一番臭い街。それも肥溜めのような悪臭を放つ魚売り場がダントツ臭いとか。そこで産婆も何もなしに、魚を売ってるどさくさに、身持ちの悪い母親に排泄されるかのように産み落とされた男。後は臓物と一緒に川に捨てられる運命だった。しかし危機一髪、施設に入れられる。生まれながらに何キロ先の匂いまで嗅ぎ分けられる、超人的な嗅覚を持つ男の悲しい物語。主演は007のQ役でもお馴染みのベン・ウィショー。かなりのイケメンなのに、一貫して無表情で薄汚い衣装、一種の「変態」役を熱演している。
皮なめし職人のもとにはした金で売られ、一生懸命働いていたが、なめした皮をお届けするのに初めてパリの街なかに出る。汚い所しか知らなかった彼の嗅覚が、ついに目覚め始める。何から何まで匂いを感じ取ってしまうので、もう好奇心の塊。そこに街なかで、なにげなくすれ違ったひとりのお姉さん。果物売りのようで、籠を抱えて歩いている。決して貴族でも、優雅な身なりでもなんでもない。しかし、彼には彼女が放つ香りが「えええ～香りや～」を超える絶品で、ストーカーのように後をついていき、暗がりで驚かれ、騒がれないようにしているうちに、窒息死させてしまう。
彼は人を愛したことも愛されたこともないのだが、この見知らぬ女性の香りが後の彼の運命を決定させる。
知識も何もないけど、ずばぬけた嗅覚で、落ち目の調香師（ダスティン・ホフマン！）に弟子入りし、最先端の香水も、工房にある材料であっという間に、それも目分量で同じものを作ってしまう。そしてそれ以上のものも瞬時に作り、大ヒット作品となる。このホフマン氏のお店の品揃えとか、工房の様子など、香水好きにはたまらないかも！
材料の名前さえ知らないところから、基礎を教えてもらいつつ、惨めな人生だったが「香りを保存する方法を学びたい！その為に俺は生きている！」と熱い思いがこみ上げてきて、お約束のグラース、「香りの聖地」へ！
1万個の薔薇を蒸留しても、１オンスの精油しか取れない。脂に匂いを移す高度な調香法、「冷浸法(アンフルラージュ)」。「眠るように花を死なせるのがコツ」色々な実験を試みながら、生きた女性の体臭を香りに残す残酷な方法を見つける。客観的に見ると、それは「殺人」を伴うのだが...彼には罪悪感など何もない。「あの香、ほしい」「ほしい」丸裸、丸坊主の遺体で次々と発見される妙齢のお嬢さんたち。うちの娘も狙われる！とやっきになる貴族にアラン・リックマン！（R.I.P.)
最後の一滴を足すことで、その香水は完成する...しかし、当然、彼は逮捕され公開処刑の判決が下る。
ここからが凄い。まあ、本来ならありえないんだけど、映画だから...「殺せ！殺せ！」と公開処刑に殺到した群衆に、処刑台の上から完成した究極の香水を振りかける。昔、NHKでやってたサラリーマンNEOに出てた、「セクスィ部長」覚えてますか？あれの究極版とでもいいましょうか..
でも、恍惚とする群衆を前に本来無感情の彼の頬を、涙が伝う。そう、あの日、パリの街ですれ違った、あのお姉さんのいい香。「えええ～香りや～」
彼が求めていたのは、それだけだったのに。グロテスクで美しく、悲しい物語でした。
![パフューム ある人殺しの物語 [Blu-ray]](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51K6lraZSqL.jpg "パフューム ある人殺しの物語 [Blu-ray]")
PS.この俳優さん、映画パディントンで熊の声もやってます！プラダのモデルもやってます！同性婚もされてます！彼の名誉のため♡
