LPT annex

whatever LPT consists of

episode 0803 : The Deceiver's elegy

「騙しのエレジー」

 下手の横好きながら、料理は好きだ。毎日の弁当作りもさほど苦にはならない。何といっても自分で作れば安上がりだし、好きなだけ腹一杯食べられるのがいい。とはいうものの、週の半ばにもなると、買置きの食材も少なくなり献立に困ったり、帰宅が遅くなり早く寝たい時もある。その上食べ物を無駄にはしたくないから、残り物も何とか消化したい。そういう時は、冷蔵庫にあるものをとりあえず研いだ米と一緒に炊飯器にいれ、ピラフにすることが多い。ひどい時は、煮物の汁をそのまま薄めて投入、煮崩れて浮かんだ肉や野菜の切れ端で、上手いこと五目御飯になった。案外と主人に評判だったが、勿論レシピは知る由もない。

 平日の料理現場を何も知らない主人は、ある日サツマイモとレモンを氷砂糖で煮た汁が勿体無かったので、冷やして飲ませたら「美味しいね!何これ」(美味しくてもそれが何だか分らないのが幸せの秘訣だと思う)と目を輝かせて聞くので、「レモネードだよ」と答えたら、すっかり煮汁のほうを気に入ってしまい、サツマイモのでん粉でとろみのついた、濁った「イモネード」を頻繁にせがむようになった。

 そんな風に主人を終末処理場代わりにしていた天罰が下ったのか、暫く頭痛と高血圧に悩まされた主人が病院に行ったところ、すべて肥満によるものと断定、本格的な減量を、それも短期間で行うことになった。医者の指導は徹底的な炭水化物抜き、ご飯・パン・麺はご法度である。便利だった炊飯器も封印、野菜中心に献立を作る。炭水化物抜きの食事は、外食では難しい。外食も自然と減った。もう、休む暇もなく料理をしている気分だ。主食のない献立では食べた気がしないのか、今までに増して食べるようになった。野菜の下ごしらえは中々の重労働である。直径20cmの寸胴鍋に並々作った薩摩汁も、具沢山のミネストローネも、作ったそばから鍋が空になる。1回の下ごしらえに大根1本、ごぼう4本、キャベツ1個…まるで家でゴリラか何か飼っているようだ。主人は、この頃腹の調子がすこぶる良いそうだ。そりゃそうだろう。1日1キロ近く野菜を食べている日もあるんだから、悪いはずがない。

 何でもかんでも美味しく平らげていた日々が懐かしい。美味しければそれでいいじゃないか。健康がなんだ。料理なんて、騙しのテクニックじゃないかと、ちょっとすさんでいる今日この頃である。

Mar. 2008

 追記 Dec. 2015

その後7年経過した主人の体重は減るどころか育つ一方で、週数回のジム通いにも関わらず体重オーバーで遂に健保組合からの栄養指導が入ったのですが、増えはしないものの減る様子がなく、遂に「あと半年で10kg痩せたら常々欲しがっているジャガーのジョニー・マー・シグニチャーモデル(中古)を買ってやる!」と大見得を切り、たまたまそこに居合わせた友人を証人に仕立て上げ、友人には成功報酬としてロックTシャツ1枚謹呈(ただし柄とサイズはお任せ)するという男の約束を、私を真ん中に3人指切りでもって浜松町駅ホームにて交わしました。人類滅亡もとい減量期限まであと半年、果たして主人はジャガーを手に入れる事が出来るのか⁈結果は半年後、LPT annexにて‼︎ さあ、うまいものどんどん作るど〜!

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フェンダー ジャガー・ジョニー・マー・シグニチャーモデル。車のジャガーではありません、念のため。ついでに言うと千葉のジャガーでもありません。