LPT annex

whatever LPT consists of

episode 0901 : A city gone bust

「つぶれた街」

 年末、主人の実家がある盛岡へ帰省の道すがら、秋田へ寄ってみる事にした。出発当日は新幹線のシステムトラブルで発車が3時間以上遅れ、到着した頃にはほぼ陽も落ちていた。まずはホテルに向かおうと駅前でタクシーに乗込むと、運転手さんに「秋田には、何用で?」と訊かれた。「観光です」と答えると、一瞬たじろかれた。店の明かりが殆どない、薄暗い通りを眺めながら「あのー、秋田で目抜き通りっていうと、どの辺ですか?」と尋ねると、運転手さんは失笑して

 「ここですよ」

 通りの終わりには昭和30年代に一世風靡した老舗デパートがあり、秋田駅前から出るバスはすべてそのデパート前に停まり、道路も駅からデパートに向かって3車線、しかも片道通行。しかし車は夕方にもかかわらず殆ど走っておらず、何とそのデパートは2階建のうち2階を閉鎖して1階のみ営業、しかも5時閉店とのこと。「でもね、そこで買うっていうのが秋田の年寄のステータスだから、年寄り向けの商品だけを扱って、無借金経営なんですよ」だがその顧客層だって不老不死ではない。近い将来、顧客と運命を共にするのは目に見えている。降車の際「秋田のすたれっぷりを見てってくださいね~」と明るく送り出された。
宿泊先は大変こぎれいなビジネスホテルでくつろげた。大浴場に入浴後、部屋でぼんやりテレビを見ていたら、「今、秋田では血液が足りません」というCMが流れてきた。別に血液くらい地産地消じゃなくても…と思ったが、それほど協力者が、いや人間がいないのだろうか。
 翌朝、5時閉店という老舗デパートに行ってみた。客一人につき店員20名といった閑散ぶりで、いづらい空気が充満していた。店の中央には立派なエスカレータが1基、乗り口が柵で封鎖されていた。エスカレータは閉鎖された2階に続き、その先には吸い込まれそうな漆黒の闇が一面に広がっていた。命からがらデパートを後にすると、駅までの「目抜き通り」には殆ど人足もなく、アーケードにはシャッターが下りているか、もぬけの殻になった「店」が連なっていた。昼食を食べようと美味しそうな看板が見えたので角を曲がったら、何軒もの店が塊になって潰れていた。人も歩いていない。まるで、街全体が潰れてしまったようだった。

 新幹線が開通し、ストロー効果という人口・経済流出で、秋田の荒廃は拍車がかかったのだという。インフラという経済発展の立役者の裏で、太陽の黒点のように収縮していく現実は、都会者のひずんだ眼にはしみるほど痛かった。

Jan. 2009*

追記 Jul. 2015

この年、秋田を代表するデパート、木内の社長が出張先で急死。その後長女が後継者となり駐車場無料化など新機軸を打出し週末の集客に成功、相変わらず閉店は5時ですが現在も健在です。8%となった消費税も「木内は消費税をいただきません」と、ある意味究極の免税店として君臨しており、諸行無常の百貨店業界に異彩を放っています。