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episode 0908 : The Goddess of gold dust

「砂金の女神」

 理化学用品で、スクリュー管瓶というものがある。スクリュー式のキャップで密閉し、粉末や液状の試料を保存するガラス瓶の事で、本来は理化学的分析・保存用途に使われるのだが、液漏れしない・開け閉めが簡便等の利点から、個人の香水やアロマオイルの小分け等にも活用される事が多い。基本は箱単位の販売で、小さい瓶など1箱200本も入っており、個人の趣味に使うには多すぎるのが難点だ。

 私も香水の小分け用に1箱買っては見たものの、中々使い切れないので、試しに10本単位でオークションに出してみたら、飛ぶように売れた。最初は、仲間内で香水の小分け交換をする人が買ってくれると思っていたが、実際はそうでもなく、大半は明らかに女性用香水とは関係のなさそうで、大変礼儀正しい男性なのだ。しかもそういう方は決まって「またお願いします」「なくなると困るので、出品をやめないで下さい」と妙に切羽詰っている。定期購入してくれる人もいる。

 そのうちあまりに売れるので在庫が乏しくなり、これでは自分が使う分までなくなってしまうと思い、出品をやめた。すると、以前購入してくれた男性から、再出品はしないのかと問合せがあった。事情を説明し、今は止めていると伝えたところ「スクリュー管瓶は、砂金の収集保管にはなくてはならないものです。他の同じ趣味の方も貴女様から購入しているはずです」…砂金?同じ趣味の人??今まで落札してくれた数々のまじめそうな男性は、砂金マニアの人達だったのか。

 思いも寄らない展開だった。あまりに熱く瓶の重要性を語られるので、手持ちの瓶をかき集め送付した所「全国の砂金掘り師の熱意に応えて下さいまして、有難うございます」といたく感激され、何枚も砂金の写真を送ってくれた。「砂金掘り師は、皆自然を愛する誠実な男性ばかりです」砂利にまみれながら輝く砂金、スクリュー瓶に丁寧に収まった砂金、細かい砂金は輝きがくすまないようアルコールと一緒に保存し、大きな砂金はそのまま入れ、瓶をゆすって金そのものの重みや音を楽しむのだという。苦労して砂金の産地を特定し、また更に苦労して掘り当てた砂金を眺めながら酌み交わす酒は最高だそうだ。半ば夢見心地で砂金を語る彼の周囲にどれだけの理解者がいるのか不明だが、何であれ追掛ける夢があるのは幸せだ。彼の謝辞はこう締めくくられていた。

「お互いに砂金の女神の微笑みがありますように!」

砂金の、女神…神様ではなくて、女神なのが男のロマンなのだろうか。だが不遜にも、私にはストリップ小屋の回転舞台に寝そべる、金粉ショーのあき竹城しか頭に浮かばなかったとは、おくびにも言えなかった。

Jul. 2009