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episode 1005 : Nephew K's extraordinary life

「甥っ子Kの非日常」

 連休明け、久し振りに長姉の長男に会った。甥っ子は大学院を卒業後、好きなゲームソフトの開発に携わりたいと大手ゲーム会社に就職したが、まずは現場を経験する為に本社勤務ではなく全国の系列店、所謂ゲームセンターに配属となった。帰省の度に両親への小遣いを忘れず、祖父母への思いやりも厚く、私の母の逝去の際は目を腫らして夜半駆けつけてくれたり、今回も入院中の父の見舞い、そして退院の手伝いと折角の休暇にやりたい事も多々あるだろうに、時間を作ってくれる心根の優しい青年に成長した。これまであまり話したこともなかったが、一年半ぶりにあった彼は、衝撃の日常生活を堰を切ったように語り始めた。

 勤務地は秋田港に程近い単館の大型店舗で、全国でも1、2を争う人気店らしく、連日異常なほど活況でどの時間帯も客が溢れている。夜勤は数少ない正社員の彼がほぼ一手に引受け、勤務時間は夕方4時半から12時半。大概昼過ぎまで家にいて、買物は全てネット通販、受取も出勤まで家にいるから問題ない。自宅付近には巨大な複合商業施設があるだけで、車がないから何処にもいけないし、ゲーセン-複合施設-自宅-通販、この4拠点が生活の全てなのだという。だが、それは自分だけではなく、多分ゲーセンにくる人々の大多数がそうで、他の勤務地では見られなかった客の異様な熱狂ぶりに面喰うと言う。開店と同時になだれ込む客へ、都心では既に嫌がられそうな風船配りをやれば奪い合う。それも小さい子だけでなくかなり大きな子供までが絵も何も描いてない只の風船を欲しがり、5時迄の予定が時間延長となり、一時は天井中が風船で埋まっていたという。そして夜になるとお年寄りが列挙してやってきて、おじいちゃんもおばあちゃんも百円で120発打てるアミューズメント仕様のパチンコに興じている。パチンコ店と違い景品交換はないが他の遊戯物で使えるメダルと交換し、遊び続けられるのだ。
また、グッズ販売にはおたく客が押寄せ、法外な値段でフィギュア等が飛ぶように売れるという。何でも勤務地の傍にある展望タワーは「秋田のコミケ会場」と呼ばれるおたくのメッカで、各種即売会やアニメ上映会、イベントが目白押しだが、所詮その人達もゲーセン客に過ぎず、狭い世界の熱狂に生きる人々なのだ。

 秋田市内に人がいないと思ったら、こんな所に棲息していたのかと合点がいったが、勤務上他に選択肢がないとはいえこの閉塞感が彼の日常として続くのは少々不安だ。それ以上にパチンコに興ずるお年寄りに対して姉がぽろりと言った「そうやって、ずっと生きてきたんだね」というひと言が、案外に重かった。

May 2010

追記 Jul. 2015

その後Kは実家そばのゲーセンで知り合った女の子がいつしか秋田までやってきて彼の家に住込むようになり、そのままゴールインしました。