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ハンブルサーバントの独り言 Humble Mumble 3 裏切りのサーカス Tinker Tailor Soldier Spy (2012)

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先般、某国最高指導者の義理の兄が、何者かによって滞在先の某国空港で毒殺された。工作員...スパイ...一体誰が?まるで映画のように。私は政治経済はまるっきりわからない。スパイ小説なども読んだことがない。しかし、ただの名もない中年女として痛く感じたことは、生まれはどうであれ、人には人の人生があってしかるべきで、政治のために身内に命を狙われる星のもとに生まれたとしても、「フツーに生きたかった。家族と楽しく過ごしたかった」と願うことが罪なのか、会ったこともない人だが(当然)、折に触れ命の危機を感じ、命乞いまでしていたという人物の、ニュースなどで流れる熊のぬいぐるみのような笑顔を見るにつけ、後味の悪いイヤ~なものを感じた。

 

「裏切りのサーカス」は、私なんぞが書いたらファンに大ブーイングされるかもしれないほどの、元M16のスパイ本人が書いた、スパイ小説の金字塔だという。70年代にはBBCでテレビシリーズにもなっていて、この映画版は21世紀ヴァージョンと言えるらしい。

キャッチ・コピーは「敵は味方の中にいる。英国諜報部{サーカス}幹部に潜む、ソ連の二重スパイ(もぐら)を探せ!」

キャスティングが凄い!ゲイリー・オールドマン、ジョン・ハート、コリン・ファース、ベネディクト・カンバーパッチ、マーク・ストロング等々...東西冷戦下に繰り広げられる、騙しあい。ダダもれの機密情報。国に忠誠を誓っているはずの者の中に裏切者がいる。作戦のためなら上司の妻も寝とる。「真実」に近づこうとする者は粛清される。それも「味方」と思っている者の罠によって。

二重,三重に張り巡らされる伏線。1回見ただけではよくわからなかったが、2回目でなんとか把握できた。「国のために」と言いながら、実はその「国」にすでに辟易している二重スパイ(もぐら)。

実年齢より老け気味に、杉下右京がうんと上品に渋くなったように、淡々と(もぐら)を追い詰めていくゲイリー・オールドマン演じる老スパイ、スマイリーがいい。とにかくこれだけ凄い俳優さんたちが一同に会し、スパイ映画と言っても007みたいにキテレツな武器が出てきたり、戦闘シーンがあるわけでもない。それも重要な役割を「沈黙」部分が雄弁に演じているのだ。

「あいつが(もぐら)かもしれない」薄々感じとる男。長い間共に戦ってきた仲間。あるいはそれ以上の感情があったのかもしれない。そして(もぐら)は炙り出される。二重スパイがゆえ、捕まればソ連に送還され、拷問の末粛清されるのは目に見えている。(もぐら)の収容先に、枯葉を踏みながらそっと近づく男。「それなら、いっそ俺の手で」遠距離から庭に佇む(もぐら)を一撃で「処刑」する男の頬をつたう一筋の涙。

やっぱり感じました。「フツーに生きたかった。」だろうなって。 色んな意味でR.I.P.

 

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