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Episode 1805 : I would talk about it when I went to heaven 3-3

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冥途の土産話 3-3

【前回までのあらすじ】卒業旅行の道中で、色々お世話になったゴシック・ロックバンドの中心メンバー。山登りに観光案内、お宅訪問と盛り沢山の日々だったが、会えば会う程それでいいのか感炸裂の面白すぎる日常が見えまくるモーメントが頻発!人生、ノンストップ!!

 

第3回

大学の卒業式前日にイギリスから帰国した私は、翌月から一般企業の正社員として新しい人生が始まったが、学生時代に洋楽雑誌の編集メンバーとして寄稿や翻訳を担当していた縁で、社会人デビューから数か月遅れで歌詞対訳家としての依頼もいただくようになった。その流れで当時国内契約のなかった文通相手のバンドの新作が、フランスのレーベルからの迂回スポット契約という形で日本でも発売される事になり、そのインナースリーブ(解説)と歌詞対訳の依頼が来た。歌詞対訳にあたっては、詞の世界や作品の背景を直接書いた本人に確認できるのは非常に有難かったし、何より長年応援してきたバンドの国内盤リリースの一端を担わせて貰えたことはファンとして光栄だったが、その喜びもむなしく、バンドは契約問題や英国内の流通会社倒産などの衝撃に呑み込まれ、苦戦を強いられることとなり、5年ほど続いた手紙のやり取りも返事を書かないうちに自然消滅した。今はどんなマイナーなバンドでもたいてい公式サイトを立ち上げ、自発的に情報発信しているが、1990年代前半はまだインターネットが家庭に普及しておらず、自宅にパソコンがやってくる数年前の話で、活動が停滞しているバンドの現況を把握するのは困難だった。数年に一度新譜を輸入CD店で見つけ、生存確認しているうちにインターネットが普及し、このバンドも公式サイトが登場したので、直接連絡を取らなくても最低限の活動状況は漏れ聞こえてきた。バンド活動の中心はヴォーカリストの兄からギタリストの弟にシフトし、この弟が結構しっかりものでCDの直販から問い合わせの回答まで一手に引き受けていた。公式サイトが出来た頃には作品が完全に自主制作盤となり、新譜は輸入店にすら入荷しなくなったので、サイトから直接購入した。そんなある日、その8年後に何が起きるか知る由もなく、公式サイトに初めて問合せのメールをしたのが2007年、下記の話である。

英国中西部が大洪水、という平生の日本ではまず取り沙汰されないニュースに震撼した私のメールに、2時間もしないうちに返信してくれたのが弟だった。自分はロンドンだし、兄貴はジュネーブに居るから大丈夫だよ、小屋は流されたけどね…もうウースターシャー州のド田舎には誰も住んでいない事から、高齢のご両親は亡くなったのだと判った。まあ、みんな無事ならいいや。その返信をもって連絡は終了した。その後も新譜が出るとサイトから購入し、プチプチ封筒の宛名が兄そっくりな筆跡の弟の手書きで、発送も自宅かよ!と縮みゆく活動規模に諸行無常を感じたが、画面ひとつで活動状況がわかり、新譜が手に入るのは、インターネットの恩恵を体感する最たる事例のひとつだった。SNSページも出来てフォローをし、最新ライブの映像は折々Youtubeで見つかるし、メンバー本人の自宅にまで呼ばれていながらライブを生で一度も見たことがない事は悔やまれたが、ファンとしてはそれで充分だしそれ以上の興味もなかった。

2015年の仕事始め、帰宅途中の丸ノ内線でフェイスブックを見ていると「5月来日決定」と告知が飛び込んできた。来日?嘘でしょ?最後に国内盤が出て25年も経っているんだよ?池袋に着いて、暫く、結構長い間茫然と立ちすくんだ。自分の中では青春の一コマで既に終了していたあのバンドが、来日?混乱しながらも気付いたら招聘元に電話をし、2公演とも押さえていた。招聘元にチケットを引換えに行くと社長がいたので来日について聞くと「ホントはサッド・ラバーズ&ジャイアンツと抱き合わせで呼ぶつもりだったんだけど、結構サドラバのギャラが高くてさ、諦めて単発で呼ぶ事にしたんだ。このバンドはリーズナブルだったんでね…でも交渉に3年かかったよ」そうか、提示額が安くて呼べたのか…少々しんみりしたが、チケットの通し番号が一桁台というのも不安を感じた。

かつてのやり取りを知っている友人には「連絡取らないの?せっかく初めて日本に来るんだし、会いたくないの?」と何人にも言われたが、自分としては会って話すこともないし、そもそも26年も前の話で相手は覚えてないと思うよ、と観客の一人としてライブを楽しむに限ると思っていた。そうして冬が終わり4月になったある日、毎日受信するスパムメールを寝る前iPhoneでサクサクゴミ箱に放り込んでいたら、件名に「Tokyo」とだけ書かれた、見覚えのある名前のメールが1件あった。アドレスを見ると末尾がchなのでスイスからだ。ん?とメールを開くと、それは名前の通り、かつて文通していた本人だった。

「バンドのサイト宛に来た古いメールを見てたら、偶然見つけたんだ。僕ら昔文通してたよね…今度東京でライブをやるんだけど、知ってる?」

来日の告知にも驚いたが、まさかバンドのHPから逆探知で本人からメールが来て、ロックオンされるとは思わなかった。

 

次回最終回、数々の難所を乗り越え悲願の初ライブ、そして26年ぶりの再会!長くなってすみません!!