音楽を聴いていて親に殴られた!という経験のある人は多いのだろうか?
パンクやメタルのレコードを大音量で鳴らしていて「うるさい!」と怒られた輩は私の周りにも大勢いた。私自身もレコードを自分で買うようになった当初、KISSやDEEP PURPLEを夕飯後ステレオで鳴らしていて「いつまでそんな五月蠅いのを聴いているの!」と言われた事は何度もあった。
ただ、段々と聴く音楽が妖気を含んだものに変わっていくと、気付けば親が後ろに立って難しい顔をしながら「お前が今聴いているのは音楽なのか?」という質問が出て来るようになる。反抗期の子供に対する態度から金属バット事件等を起こしかねない理解不能な存在への変容。
最初にそう言われた時って何聴いていたかな? Throbbing GristleのBeyond Jazz Funkというタイトルのライブカセットだったか・・・
とはいえ日々そんな音を好むと好まざると聴かされ続ければ家族も慣れて来るわけで、中三の夏位にはまあ大体どんなものを聴いていようと何も言われなくなった。調子のって夏などは窓を開け放してPIL「paris au printemps」等をかけたりしていたからさぞ近所迷惑だったはず。そうして秋が来て冬が来た。
中三の冬といえば受験シーズン。私はロックを聴いたりライブ行ったりするには東京出るしかない、その為に一番てっとり早いのは東京の大学へ入る事だ。という自分が親なら撲殺したくなるような考えで東京の大学への進学実績がそこそこある高校を志望。
一応まあよっぽどポカしなければ受かるんじゃない?程度の判定は出ていて教師との三者面談でもそれほど厳しい事は言われなかったので慢心していていたのであろう。親の方はよほど心配していたはずだが親の心子知らず、それほど根を詰める事もせず、夜はFM聴きながら適当に勉強、隙を見てはステレオで爆音再生を楽しみつつ新年を迎えた。
貰ったお年玉を握りしめて新年恒例レコード屋参り。そこで買ったのが日本盤出てまもないTHE POP GROUPなるバンドの「WE ARE TIME」というアルバム。
近年再結成して新作も出しているみたいだが(未聴)このバンド、当時はアルバム2枚のみで解散、買ったのは解散後出されたデモ音源、未発表曲、ライブ音源等をごた混ぜにした編集盤だった。パンクとダブとフリージャズを攪拌して絶叫ぶちまけたような音塊、音質も曲毎にバラバラ、今聴き直すとかなり適当にでっち上げられた作品のような気がするが当時は貪るように聴いていた。1月から2月まで。
そして明日はいよいよ受験当日という日、私は「今更ジタバタ勉強したってこれ以上頭入んないよね。」と勝手に自分で納得しその日もこのアルバムを聴いていた。最終曲タイトルトラックの「WE ARE TIME」が始まる。ライブ録音で音質劣悪。途中でフリーなのか下手なのか判らないサックスソロが延々続きクライマックスでボーカルが「WE ARE WE ARE WE ARE TIME!」とスピーカーが割れそうな声で絶叫しているそのタイミングで凄い勢いで1階から2階へ駆けあがってくる足音が!
母親が部屋へ殴りこんでくると有無を言わさずビンタ炸裂!
「あんたは!受験前日なのに!こんな訳のわからない音楽聴いて何やってんの!バカ!」
ごもっとも・・・何も言い返す事も出来ず、母も怒鳴った後は何も言わず1階へ降りて行った。その後どうしたのかの記憶が無い。一応勉強するフリをしたのやら寝てしまったのやら。
たしかに自分の息子が人生かかっているかもしれない日(当時 私の出身地では高校入試失敗して中学浪人する人がかなり多かった。高校1クラス45人中10人程度は浪人を経て入学して来た人だった)の前日にそんな事をしていたら怒りたくもなる。父には何回か叩かれたりした事があったが母にビンタされたのは後にも先にもこれだけだった。いや・・・本当にあのときはすみませんでした・・・・
試験前日ビンタ喰らった事で頭がスッキリしたのか何とか入試は合格。一応高校時代は試験直前は部屋のラジカセで小さい音で聴くという自粛をして過ごした。とは言いながら三年後の大学受験では東京に出て試験だった為、試験終了後は会場近辺の輸入盤屋(DISC UNION、EASTERN WORKS、KINNIE 新宿レコード等)をシラミ潰しで歩き回り宿舎帰った後は疲れ切って寝るという1週間を過ごしたような。全然反省してない。
WE ARE TIMEのアナログ盤は実家に置いたままだ。数年前、紙ジャケでCD再発された時に購入したが今でも聴くたびに頬のあたりが冷たくなり鼻の奥にツーンとした感じがするのは気のせいだろうか。