LPT annex

whatever LPT consists of

マンプク宮殿6 100円タンメンとMarquee Moon

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 上京して最初に住んだ街は中央線の西八王子駅前から歩いて15分の散田町という所。通学に使うバスの停留所から近い&家賃安い割にまあまあ広い間取り(四畳半+三畳、風呂なし、トイレ共同)という理由で決めた物件だったが、住んでみるとこれがまた大変。1階の角部屋だったが湿気が凄い。押入れに入れる湿気取りが1週間もしないうちに満タン。畳も素材がイグサではなく柔道部稽古場で使われるようなビニール畳の為、湿気が表面にベットリ残る。引っ越し初日、扉を開けるやいなやカマドウマに出迎えされた段階で嫌な予感がしていたがこれほどとは・・・・

 6月でもはっきりとした雨季が来ない東北から出てきて初めて体験する梅雨&その後の酷暑にも打ちひしがれ、冬も地元よりは暖かいとはいえ安普請のアパートでは容赦なく寒気が入り込んでくる。上階のトイレの水道が凍結し、使った奴が蛇口開けっ放しにしていた為、水が溢れて1階の自分の部屋の扉を濡らす→再凍結して外出る扉が開かない→授業遅刻という事態にあった時には2年の契約更新時に引っ越す事を強く誓ったものだった。

 この街の良いところと言えば食生活がとにかく安上がりに済んだ事。350円位で揚げ物てんこ盛りの定食食わせる店、18時過ぎには弁当総菜類が半値になるスーパー(その時間あたりには同じ大学の欠食学生が売り場近辺をウロウロ、含む私。)そして同じアパートに住んでる友人がコンビニ深夜バイト上がりの早朝に廃棄品弁当を差し入れてくれる。

閉店当時の地元情報サイトより。店名に注目

 そんな中で私が最も足繁く通ったのが「満腹亭」という店。この店は10年ほど前に閉店したらしいが最後までラーメン100円を貫いていたらしい。私の住んでいた頃はラーメンのみならずタンメンも100円だった。餃子は200円。ラーメンより餃子の方が高いとはいえ300円あれば満腹。本当に金欠のときはタンメンだけでもOK!。味?は・・・不味いとは思わなかった。凄い美味しいとは思わなかったがあの頃は美味い不味いより腹満たすのが最優先。100円で食わせてくれる処に文句なんて言うのがおかしいってもんです。

 学校営業時は学食で一応バランスも考えて食べているんだが、長期休暇中の食生活は実家に戻らない限り100円タンメンとコンビニ廃棄弁当とスーパー弁当値下げ品の無限ループに突入。そして迎えた春休み。何かの理由で徹夜してしまった私はそれを期に昼夜逆転生活に突入。朝、朝刊の配達の音とともに就寝(廃棄弁当が届けばそれを食べてから)14時位にいったん起きて100円ラーメン食べて部屋に戻りまた寝る。19-21時位に本格的に起きだしてスーパー営業時間内に起きれれば値下げ品の弁当やお惣菜を買って部屋に戻る・・・我ながら爛れた生活であきれ返るばかり。
 夜中に起きて何やっていたかといえば2枚のアルバムを延々とリピートして聴いていた。1枚はLOU REEDの「TRANSFORMER」そしてもう1枚はTELEVISIONの「MARQUEE MOON」。2枚とも今でも好きな作品だがこの時期の常軌を逸した聴き込みは空前絶後、特に「MARQUEE MOON」は一晩で5回とか6回とか聴いていたので持っていたアナログ盤は溝が摩耗しており、20年位前に聴き返してみたらバチバチと酷いノイズを出していた。傍から見れば社会不適応者のような生活をしていた時期を回顧するには相応しいノイズ。

 あれだけ聴きこんだモノがその後の人生に何か影響を与えたのかは判らない。確実なのは酒席で音楽好きな方たちと話してる時にたまに出る質問、「あなたはギタリストは誰が好きなの」に「トム・ヴァーレイン」と絶対答えること。色々と理屈やら見栄も混ざって、5人選べ、とか10人選べとかになると他の方は変動するのだけれど1人と言われるとこの人・・・・ロバート・フリップと僅差だけど。
 
 結局、この昼夜逆転は2週間程後、下痢が止まらなくなり余りの体調不良で実家へ避難。生活時間を元に戻し、まともな家庭料理を食べることで2年に進級直前に回復。そこからは知人の紹介で今も一緒にやっているベーシストに出会いバンド加入。ゼミやらバンドやらで諸々忙しくなり時間軸の狂った孤独な時間は無くなった。私はバンドに加入した事で生活がマトモになったんだろうなと今になれば思う。
 あの春休みを終えた後、100円タンメンはあまり行かなくなった。アパートの友人もコンビニバイトからジーンズ屋のバイトに変わり廃棄を貰えなくなった。スーパーは製造量調整したのか値下げ前にめぼしい物は売り切れるようになった。そして1年後には引っ越してしまい西八王子とも縁が切れた(引っ越し間際に大家さんとも喧嘩した)。

 18-19歳の頃の事は思い出すと楽しくない事が多いのだけれど、夜に一人で時間が余った場合は「MARQUEE MOON」を聴くことが今でもたまにある。環境の変化で自閉気味になっていた時期を乗り切る為に必要な「音」だったのでしょう。節目節目で今でもそんな気分になるときに頭の中で鳴っているのはこのアルバムの中の曲だから一々CDで再生する必要は無いのでしょうが。

 

マーキー・ムーン