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マンプク宮殿8 ホヤとヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーター(前編)

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 その昔、仕事から帰ってきた父が晩酌でサッポロを飲んでいる時、傍らの皿に入っているオレンジ色の憎い奴、臓腑を掘り出したように見えるそれが「ホヤ」なる海産物だと認識したのは小学校を卒業するかしないかの頃だった。父のみならずお盆などで親族が集まり叔父連中が酒盛りを始めると皆の前にもれなくそれが入った皿が並んでいる。
 
産直丸魚 南部もぐりの手摘み 種市産 活 天然 ほや 1kg (3-5玉)
ホヤ
 生臭い中にケミカルな成分を含んでるかのようなその香り、オレンジ色と黒にグロテスクに染め上げられた身。そして捌き済で流しのコーナーポストに捨てられている殻・・・赤黒い色でイボイボが出ている。ウルトラセブンのブラコ星人かはたまや日野日出志の「蔵六の奇病」かという気持ち悪さ。子供の食卓に並ぶことは無いがたまに親父が面白半分に「どうだ?食べてみるか?」とサッポロと一緒に勧めて来る事があった。
ウルトラ怪獣消しゴム No.108 ブラコ星人(銀)|ウルトラセブン 円谷プロ一度だけ両方貰った事があったがどちらも苦い!変な味!食感がグニャグニャして気持ち悪い。いつまでも口の中に後味が残り続ける・・・キリンレモン飲んでも消えない。こんなものを喜んで食べる大人というものは理解できない、という真っ当な子供らしい感想のまま高校を卒業し上京。20歳の声を聞くまで二度と口にすることは無かった。東京ではその頃は殆ど見ることの無い、少なくとも金欠大学生が行くような店に置いてあるようなものでも無かったし。 

蔵六の奇病 (1979年) (ヒットコミックス)大学三年あたりにはビール等も少しは吞むようになり、夏の風呂上り一杯の旨さにも開眼。たまには友人などと安居酒屋に行ってオダを上げるようになってきた夏。帰省して高校時代の友人と入った地元食材が肴の居酒屋で奴と再会した。ほろ酔い加減で勢いに任せ頼んだそれは過去の諍いなど水に流すかのように美味。酒と煙草で恐怖の味覚改革されたのか?翌日、宿酔の苦しみから解放された夕方に近所のスーパーで買い求め、母親に捌き方を教わり自分で酢の物にして食べている自分がそこにいた。ホヤとの再会&今に至るまでの永い付き合いの始まりだった「ユリイカ!」とでも叫んでいたら良かったのかどうか。

  とはいえ、少し前まで都内のスーパーでは極まれに初夏出回る事があるくらい。そしてあまり美味しくない。居酒屋などで出ることもあるが匂いだけが強くて味は・・・という事が多かった。なによりホヤを食べる習慣がある地域が日本の中でも限られているというのも働き始めてから知った。東北地方の人間には馴染み深いがそれ以外の地域の方々から言われるのは
 
「あー!ホヤ。東北出張の時地元の人に勧められたけどねえ・・・何なのあれ?」
「あんな臭くて気持ち悪いもん良く食べられるな。さすが蝦夷は味覚が違う」
「怪奇!ホヤ人間!」
 
など殆どまっとうな人扱いされない。
 
 最近はスーパーでも大分鮮度が良い物が出回り、居酒屋でも臭みが強い質の悪いものは見なくなってきているが、それでもあの見た目と食感故、関東圏でも市民権を得るのは無理だろうなとは思う。ましてや中部、関西など・・・
 

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 続く!