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episode 0712 : Muscle in white

life is life

「白衣の天使」
 
 今年5月より特養入りした母が決算前に吐血し、都立の老人病院に入院して早2ヶ月が過ぎた。最初は会話も出来た母だが、食事が思う様に摂れず、最早言葉を返すこともできなくなった。病室を見回すと、一見しっかりした言動を取るが内容は支離滅裂な人、痛いよ、痛いよと24時間呻き続ける全身茶変の女性、人任せの介護が裏目に出たか、弱った妻に対し罵詈雑言しか吐かない、ご主人と思われる狼狽した見舞い客、地獄に行ったことはないが記憶で描いてみろ、と言われたら片隅に描けそうな光景が展開しているのが老人病院だ。

 沢山の看護士や医師、ワーカーに母は支えられ、今も生きているわけだが、その中で、母の担当ではないがひときわ輝いている看護士がいる。20代後半の、色白で目のくりっとした男性で、てきぱきと、澄んだ声で患者さんの面倒をいつも細やかに見ている、それも、完全なオネエ言葉で。
「さあ、○○さん、お食事の時間よ!お名前教えて頂戴!はい、お口あけて、アーンよ、アーン」で、患者が言うことを聞かないと、「お口あけて!!」といきなり男声になるのも頼もしい。患者に集中しながらも周りの様子にも気を配り、脇でこそこそ携帯を打っていた姉は「秋山さんのご家族!携帯は、ダメよン」と一喝されたという。ひとしきり食べ終わると「美味しくたべられて?あ~ら、それは良かったわ」と、山積する次の業務に映るべくお膳を片付け、内股で小走りに行ってしまう。動けない患者さんが多い中、し尿処理も鮮やかに、「おしもよ、おしも~!」と軽々こなしている。ある日、患者の家族が、忙しい彼を労おうと、「点滴は24時間行うんですか?」と看護士に聞くと、「何の冗談ですか!それじゃ患者さんが寝る暇がないでしょ!」と、患者中心の返事が返ってきて、職務に対する情熱も熱かった。患者も含め、久し振りに明るい笑い声が満ちたその瞬間、私と目が合った彼は、ウフッ、と肩をすくめちょっと小首を傾げながら、両目でウインクしてその場を立去った。最近では本物の女の子でもそんな仕草はしないと思われるほど乙女チックで愛らしい彼だが、先週からすっかり母の病室で見かけなくなった。多分他の階でも引張りだこで、過密労働を男らしく果敢にこなしているのだろう。

 医療の現場には、彼みたいなオネエマンがもっと増えて欲しいと思う。きめ細やかで力持ち、いざとなったら喧嘩も強い。一般企業でスーツをまとい、肩身の狭い思いをするより、持ち前の情の厚さを武器に、白衣の天使として羽ばたいて欲しいものだ。

Dec. 2007