LPT annex

whatever LPT consists of

episode 1006 : The Last 4 days of Dad

「看取り介護」

 先月、彼岸の頃より肺炎を起こし入院していた高齢の父が、快復の見込みなしとの判断により、入所先の特養に看取り介護のため戻ってきた。看取り介護とは、家族に代わって介護施設が中心となって、自宅ではなく施設内で「看取る」事だが、病院と違って特養は医療施設ではないため、栄養を経口摂取できない患者に対しても、点滴などで栄養補給すらできない。そのため、看取りに入った患者は体内に残った僅かな生命力だけが頼りとなるが、それが何日もつのかは誰にも分からない。但し父の場合は、もって月内、とは言われていたため、私は父の退院にあわせて介護休暇を取得して、毎日特養に通った。
既に入所より4年、実家から至近の施設なためご近所出身の職員も多く、出勤の方は勿論、非番の方や既に転勤した看護士の方までもが代わる代わる父に会いに来てくれて、徐々に意識の薄らいでいく父に向って、大声で地元の商店街の話をしたり、また元気な時は父が一方的に嫌がって失礼をした理学療法士さんが、もうあと何日もない、意識の殆どないような父に床ずれができないか心配で1時間おきに体位を変えに来てくれたり、これまで度々見舞いには来たけれど、一日を通して特養にいた事はなかったので、これ程までに父が暖かく大事にして頂いていたのかと思うと、自宅介護の限界を大きく越えた、そして職務をも越えたいたわりに、ただ頭が下がった。
 何より申し訳なかったのが、看取り介護初日、今後の方針について施設長や主任看護士を含むオールスタッフとの面談に姉と立ち会った時の事だ。折しも昼食を近所の蕎麦屋で甥っ子と腹いっぱい食べた後の午後3時、会議室でスタッフに囲まれ、姉と私が万が一の場合も病院に搬送せず、延命措置も行なわず…との意思確認を受けているにも関わらず、突如激しい睡魔に襲われ、がっくりと頭を下げて寝てしまった。半分夢を見かかったその時「どうしたの?大丈夫?!」と動転した姉に肩を揺すられ覚醒、とっさに出た言葉が「あの…すみません、緊張すると眠くなる癖があって、あまりに大事なお話で緊張してしまって…」と、その言い訳も苦しく若干ろれつも廻っていなかったが、皆「ああ…」と納得してくれ、気づいたら私の向かいに座っていた相談員さんが、もらい泣きしていた。

 面談はつつがなく終わり、父は退院後一切の医療措置を受ける事無く、4日でこの世を去った。親も子も、人の善意に生かされた、得がたき4日間だった。

June 2010