両親を見送る前から、もう二人は病院から、施設から家には帰ってこれないと分かっていたので、相当な年月分の家財を始末せざるを得ない状況になっていた。どでかいタンスや両親の衣類、その他諸々清掃局に依頼して何回もトラックで来てもらい処分したり、施設に寄付したり粗大ごみで出したりそりゃもう、発狂しそうに大変だった。それを機会に40年以上住んできたボロボロの戸建てから、簡素な3DKのマンションに引っ越す予定だったので、逆算して行きがかり上真夏にやってしまった。エアコンもちっともきかなかった。
ああ、これでやっと終わりだ~、もう粗大ゴミの手配はしなくていいんだ~と思った矢先、父の寝室の天袋の奥の奥から小型ストーブが出てきた時は絶叫した。
食器類も気の利いたもの、懐かしいものは妹の家に持っていかれた。今後もこんなに使わないしと、マンションに移ってからも「ご自由にどうぞ」とその他の食器類は玄関先に陳列した。凄い、置いたそばから全部なくなっていった。とにかくあのマンションでは、管理人さんも大目に見てくれ、何を出しても全部消えていってくれ、粗大ゴミシールも買わずに助かった(笑)
1944年。第二次大戦下。ナチス・ドイツがバリバリに暴挙を働いていた。本人はアーティストにはなれなかったものの、美術品への異様な執着を持つヒットラーは欧州各地で美術館や教会を破壊し、後世に残すべく歴史的絵画など強奪していた。お気に召さないピカソなどの近代的なものは焼き尽くす、病人や障害者、ゲイなどは抹殺など、いくら戦争の狂気で神経がマヒしているとしても、「美しい」ものを見て魂から「美しい」と思える余裕は残っていたのだろうか。
ミケランジェロやフェルメールなどおびただしい数の略奪品は岩塩鉱や銅山に大切に隠していた。最終的に建設予定の「総統美術館」に展示するために。そんなこと許されるか!美術品を救わねば!とハーバード大美術館長(ジョージ・クルーニー)がチームを組んで立ち上がる。戦士としてはみんな年がいってるが豪華キャストで美術関係者、建築家など7人のチーム(The Monuments Men)だ。情報を得ながら場所がコロコロ変わるので、ついていくのに必死だったが、各地に赴くも「最前線で沢山死んでるのに、何か美術品だ!」と協力を断られたりもする。
ドイツ占領下のパリで、ナチス親衛隊長の元、美術館で協力的な秘書のふりをして働く紅一点、ケイト・ブランシェットがいい。一貫してフランス訛りの流暢な英語。女優さんてスゴイ。情報を得るためにひとりパリに派遣されるマット・デイモン。大きな倉庫のような所に彼女が密かに案内する。天井まで届くように積み上げられた椅子、家具。品のいい食器の数々。美術品ではない。「なんですか、これは?」「人々の生活よ」「誰の?」「ユダヤ人」。
後に岩塩鉱で絵画などと共に、恐ろしい数の金の延棒なども発見されるが、一番心をえぐられたのは、沢山の樽一杯に保存されている金のツブツブ...一瞬なんだかわからない。「金歯」。
結局、ドイツは負け、全てではないものの、名作の数々も戻ってくる。The Monuments Menからも犠牲者が二人出ている。最後の記者会見で、トルーマン大統領がジョージ・クルーニーに質問する。「30年たって、こうした美術品を守るために命を落とした者がいることを誰が覚えているだろう。それでも命を捧げた価値があったと、亡くなった彼らは言うと思うかね」
私は「People’s Lives」というケイト・ブランシェットの台詞が忘れられない。合掌