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episode 0905 : As you are now a friend

 

「おじいちゃんと文通」

 ある日、英オークションサイトを見ていたら「50年間タンス保管の未開封香水」というのが出てきた。歴史的名香のヴィンテージで、日本に発送可能か出品者に送料を照会したら、普通個人情報は伏せて取引できるオークションのはずなのに「個人のメールアドレスをご連絡下さい」と返事が来た。まあ、アドレス位いいか、と返事を出したら、まだ入札もしていないのに長いメールが届いた。

「いかにも私は、家内の代理で香水を出品している、70代後半のデヴィッドです」お、おじいちゃん?メールはまだまだ続いた。昔奥さんはモテモテで、皆に香水をプレゼントされるも、本人は定番の香りがある為殆ど友達にあげてしまっていたが、これだけタンスに残っていたとの事。内容の大半は家内自慢だった。御礼かねがね入札後再度メールすると、更に長く、しかも驚愕の返事が帰ってきた。
「他にも競合者がおるようじゃが、競り合って夜更かしや無駄遣いはせんように。わしらの友情の証に、落札できても出来なくても、出品していない他の香水を送ってあげるから」…友情の証?この時、おじいちゃんの中では私が友人になっている事を書面で知った。しかもこの未出品の香水というのが出品すれば瞬間値がつく、マニア垂涎の希少品だったのだ。出品は家のガラクタ整理であって、お金は関係ないのだという。メールは最後にこう締めくくられていた。

 「…これからは、デイヴと呼んで、くれんかのう」(原文:...as you are now a friend, better call me Dave!!!)

オークション最終日、案の定数名と競り合い始めた。時差の関係で未明に終了するオークションに最後まで参戦できない私のため、おじいちゃんは何と途中で出品を取下げ、しかも送料無料で発送手配までしてくれた。届いた香水はみな極上のコンディションで、まるでタイムスリップしてきたかのように新鮮だった。

 突然友達になったおじいちゃんはその後もメールを頻繁にくれるのだが、さすがは暇な年寄り、毎回有り余る時間を最大限に有効活用した超長文で、話題は第2次世界大戦まで遡り、昔話と健康・介護が中心。昔の写真も沢山送ってくれる。だが、幼少に戦火を越え、親の再婚と確執、妻の看病、その後実母の介護と見取り、そして現役引退…と、数々の経験を積み上げた方の「手紙」は毎回胸に沁みるものがあり、話を伺うのも他生の縁。そして何より自分の親を通して実感した「年寄の時間は短い」…昨日できた事が今日から突然できなくなり、ひとつ、またひとつ階段を降りてゆく、その繰り返しで急激に衰えていくのがお年寄りだ。メールだって、いつぱったり来なくなるかもしれない。1回1回を大事にしよう。そんな、ちょっと切ない予感もはらみながらも、「今度電話をくれんかのう」と言われ、さすがに閉口している私だった。

 

May 2009

追記 Jul. 2015

その後おじいちゃんとの親交は後述のlife is lifeに続きますが、電話についてはこの2年後から毎週日曜日、スカイプで2時間話す事になりました。会話が流暢でないのが幸いし、余計な返答ができないのが功を奏しほぼ傾聴に徹しているので、毎回大変喜ばれています。