LPT annex

whatever LPT consists of

マンプク宮殿7 ビッグマックとCLOSER

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どこの地方都市でも大体そうだとは思うが、私の育った街も1980年代初頭位までは全国チェーン展開している外食産業、小売業系の店舗は殆ど進出して来ていなかった。地元資本のチェーン店、個人経営店舗で商店街は形成され、どこも18時、遅くても19時には閉店し表通りは閑古鳥、裏に並走する飲み屋街(これも殆どは個人経営の酒場中心)に人の流れは移り、酔客が闊歩するのみという光景が普通だった。夜遅くに街を徘徊するような生活は送っていなかったが(高校2年まで21時には寝ていたような人間なので・・・)街のハレとケは明確に分断され、ここから先は子供の行くような場所や時間では無いという事が明確に認識できる雰囲気を感じていた。
 それが変わり始めたのが東北新幹線開通した頃、駅ビルに最初に入ったハンバーガーチェーンがロッテリア、ほどなく駅よりかなり離れているが昔から賑わっていた商店街にマクドナルドが進出して来た。
 名前だけは知っている有名店、今まで食べる事の殆ど無かった「ハンバーガー」なるものを食べてみようと友人と連れ立って入ってみたが、確かあの頃は単なるハンバーガーで¥180、チーズバーガーで¥200、金欠中学生はとりあえず無印ハンバーガー。ポテト?ドリンク?そんなもん要らん!と食べてみると旨い不味い以前に小さすぎ!とても腹が満たされない。だからと言ってセット頼むと¥500近くて贅沢過ぎ。こんな小さいものをアメリカ人のデカい奴らは食べて満足するのか?それとも1人2個3個一挙に食べるのか?という疑問を持ちながらメニューを再見すると「ビッグマック」というものが目に入った。1個¥350・・・天文学的な高値と思いつつこれ食べれば満腹にはなるのだろうなと思い満たされないまま家路についた。2度と入る事ないなと思いつつ。


マクドナルドと言えばドナルド。ドナルドと言えば、ちょっと前はこれでした


 同じ頃、私は音楽雑誌でちょこちょこ名前が出て来るバンドに強い関心を抱いていた。「joy division」アルバムは「closer」これらの単語に付随してくる文章と言えば「ボーカリストが首つり自殺して解散」「イギリスの陰鬱な若者たちに絶大なる人気」「バンド名の由来はナチスの将校用慰安所の名称」。日本でも人気上がってきていた新人バンドECHO&THE BUNNYMENとかU2の記事でも名前が良く出てくる。たまに雑誌で見る写真ではどこにでも居そうな地味な連中が俯き加減で廃墟みたいな室内、雪で真白な橋の上等で所在なく佇んでるコントラストが強いモノクロ写真。「どう考えても自分好みの音に違いない」という強い確信を持つに至るが日本盤未発売の為地元のレコード店では売っていないといういつものパターンに頭を掻き毟り、異常乾燥注意報の為パサパサになった頭皮からフケを撒き散らしていた。
 懇意にしていた中古盤屋数店に入荷したら連絡を貰えるよう頼んで数カ月、その中の1店から入荷の連絡が入った。場所はあのマクドナルドの近所。授業が終わってから部活をサボり自転車を飛ばして店へ向かった。確かにそのアルバムはそこにあった。イギリスのバンドなのに何故かスペイン盤、オリジナル盤を知っている今だからこそ判るが紙質は薄くてザラザラ、印刷も荒い、音質もあまり良くなかった。そのせいかも知れないが自分が予想していたよりかなり安価。比較対処するものを知らない私は自分が永い事捜していたものを安く買えた事で有頂天になり店を出た。ペダルを漕ぐ脚も軽く。そして何を思ったのかマクドナルドへ向かう。

McDonald's FOOD STRAP/マクドナルド フードストラップ 第1弾 【1.ビッグマック】(食玩) 記号:まる
ビッグマック型ストラップ。実際はこんなにボリュームないと思います


 自分が用意していたお金と購入した金額の差額は¥500。気が大きくなっていたのだろうか?そのお金でビックマックとコーラ(S)を頼んでしまった。店には全くそぐわしくないキリストの死を嘆き悲しむ彫像写真をジャケに使ったアルバムを机に出して眺めながらビッグマックを食べた。美味しかったか?否、ただ量が多いだけで胸やけがした。

 ムカムカする胃を抱えながら自宅に帰り早速レコードを再生する。1曲目、タムを廻してるのみのドラム、音程がどっかいっちゃった唄。電動ノコギリみたいな音しか出してないギター。妙にメロディアスだがリズムキープという概念が全く無いようなベース・・・曲名はatrocity exhibition。JGバラードの小説のタイトルが元ネタ、邦題「残虐行為展覧会」だったか?

 聴き始めは「こりゃ失敗したかな?」と思ったがA面最後あたりでどんどん引きこまれていきB面全て聴き終える頃には圧倒されていた。その日は夕飯まで何回もリピート、食事後も寝るまでこれだけを聴き、それから数カ月は毎日必ず聴いていた為、高校を卒業する頃には溝が磨滅してしまい雑音塗れになってしまっていた。あれだけ負のオーラを漂わす演奏(そして下手)徹底的に厭世的な歌詞、リバーブとディレイで凍てつくような世界を具現化したプロデュース。恐らく本人たちだって意図しないで出来てしまったような作品ではないかと今では思うが10代の自分には「これだけネガティブでも突き抜ければこんな凄い作品になるんだ」という人生負け犬街道まっしぐらへ迷い込ませた罪深いアルバムがこいつなのは間違いない。

 彼らが作品を発表してたレーベル、FACTORYはマンテェスターに基盤を置いた独立系のレーベル。70年代末から80年代は独立系レーベルが活況で商業的にも成立していた。ROUGH TRADE, MUTE , 4AD,RED RHINO,MIDNIGHT MUSIC,FIRE等等。ディストリビュートの崩壊に伴い倒産やメジャー系に買収され始めたのが90年代頭。奇しくも私の故郷に全国チェーンの外食産業、大型チェーンストア、コンビニ等が大量出店始めた時期と重なる。今では街のメイン通りはチェーン店ばかりが目立つようになってしまった。

 ビッグマックには魅せられなかったが「closer」は今でも我が家のリファレンスディスクの座を守り通している。そういう我が家は帰省しても最近は時代に抗うように残っている地域に足が向くようになってきている。時代に見捨てられたのやらこちらから見切ったのやら・・・・

クローサー【コレクターズ・エディション】

不休の名盤 クローサー/ジョイ・ディヴィジョン 実家にあったLPは、中2の頃池袋
オンステージヤマノで買ったアメリカ盤でした。